固体電極を用いたボルタンメトリーアナリシス (VA) による微量金属分析 – Part 4 スクリーンプリント電極
2020/10/19
記事
ja
スクリーンプリント電極を用いたボルタンメトリーによる重金属分析について解説しています。スクリーンプリント電極にはさまざまな種類があり、メンテナンス不要の使い捨て電極です。
さまざまな固体電極を取り上げた本シリーズでは、新しい Bi drop 電極 および scTRACE Gold 電極 を紹介し、これらが飲料水中の重金属測定において有する可能性について解説してきました。第4回では、重金属分析に利用可能な次のタイプのセンサーであるスクリーンプリント電極(SPE)について解説するとともに、ニッケルとコバルト同様にカドミウムと鉛を同時に定量する2つのアプリケーションについて取り上げます。
スクリーンプリント電極(SPE)
スクリーン印刷によるマイクロファブリケーション技術は、厚膜型電気化学センサーの製造において確立された技術です。この技術により、再現性が高く、機械的に堅牢な固体電極を大量生産することが可能となります。大量生産が可能であることは価格に大きく影響し、SPEは安価で、重金属の測定に便利なものとなっています。
印刷技術により、メンテナンス不要の参照電極を製造することができるため、重金属分析のための分析システムの準備がより迅速かつ簡便になります。この場合、測定後に参照電極へ電解液を補充したり、センサーを洗浄したりする必要はありません。
さらに、3電極(作用電極、参照電極、補助電極 ― 図1参照)を単一のプラットフォーム上に統合し、それらおよび対応する装置を小型化することで、装置のサンプリング地点への持ち運びが容易になり、現場での重金属測定が可能となります。
重金属検出のためにこれらのスクリーンプリント電極の特性を変更する最も簡便かつ迅速な方法は、作用電極上に金属膜(ビスマスまたは水銀)を電気化学的に析出させてめっき(in situ または ex situ)させることです。この方法により、単一タイプのセンサー(例えばカーボン)SPEを幅広い用途に柔軟に使用することが可能になります。
SPEの他の用途についてご興味がある場合は、下記より関連コラムをご覧いただけます。
水銀膜修飾SPE
カーボン作用電極上の水銀膜は、電極表面に吸着した非常に薄い水銀層から構成されています。蓄積(前濃縮)およびストリッピングの機構は、従来の水銀滴下電極で起こるものと同じです。
ビスマス膜修飾SPE
ビスマスは毒性がないため、ビスマス膜の作製には環境にやさしい2つの方法があります。すなわち、in situ めっき法と ex situ めっき法です。ex situ めっき法では、最初の測定前に別の溶液中でビスマス膜を形成します。その後修飾した電極を超純水で洗浄し、分析に使用します。
スクリーンプリント電極は、使用できる測定回数が限られており、定期的に交換する必要があります。寿命および交換頻度は、電極の種類や用途によって異なります。
現在、スクリーンプリント電極により、カドミウムおよび鉛の現場での同時測定が可能です。そこで以下では、メトローム DropSens 11L カーボンスクリーンプリント電極 を水銀膜で ex situ で修飾することでカドミウムおよび鉛を測定する方法を紹介します。
さらに、カドミウムおよび鉛の測定に加えて、ニッケルおよびコバルトを対象とした ex situ ビスマス膜法についても紹介します。これらの測定(カドミウムおよび鉛、ならびにニッケルおよびコバルト)は、 946 ポータブル VA アナライザー (スクリーンプリント電極(SPE)仕様、図2)または電極シャフトを用いた任意のメトローム VA Stand(図3)で実施することができます。
946 ポータブル VA アナライザーの詳細情報については、以下のリンクよりご覧いただけます。
電極シャフトを使用することで、任意のメトローム VA Standにおいてスクリーンプリント電極(SPE)を使用できるようになります。ボルタンメトリーによる微量分析を行う場合でも、独自に改良したセンサーで新たな応用分野を開拓したい場合でも、電極シャフトによりSPEを簡便に使用することが可能です。
SPE用電極シャフトの詳細については、下記のフライヤーをご参照ください(英文)
Flyer: Electrode shaft for screen-printed electrodes – Screen-printed electrodes for VA Analysis
アプリケーション
カドミウムおよび鉛のアノードストリッピングボルタンメトリーによる定量
カドミウムおよび鉛は有毒元素であり、飲料水中の濃度をモニタリングする必要があります。世界保健機関(WHO)の「飲料水水質ガイドライン」における暫定指針値は、カドミウムで最大3 µg/L、鉛で最大10 µg/Lに設定されています。
ex situ 水銀膜で修飾した メトローム DropSens 11L カーボンスクリーンプリント電極 を用いることで、飲料水試料中のカドミウムおよび鉛を同時に定量することが可能です(図4)。
946 ポータブル VA アナライザー を用い、析出時間90秒の条件では、両元素について0.3 µg/Lの検出限界(LOD)を達成できます。これは、WHOの暫定指針値をモニタリングするには十分な性能です。
β(Cd) = 2 µg/L および β(Pb) = 2 µg/L の確認用標準溶液における5回測定の相対標準偏差は、カドミウムで14%、鉛で12%です。また、回収率はそれぞれカドミウムで88%、鉛で82%です。
さらに詳しい情報は、下記のアプリケーションノートをご覧ください。ダウンロードできます。
ニッケルおよびコバルトの吸着ストリッピングボルタンメトリー(AdSV)による定量
ニッケルおよびコバルトは、直接的に、あるいは排水―河川経路を通じて、飲料水供給系に流入する可能性があります。EUでは、飲料水中のニッケル濃度の基準値は20 µg/Lと規定されています。
ニッケルおよびコバルトの同時かつ簡便な定量は、錯形成剤としてジメチルグリオキシム(DMG)を用いる吸着ストリッピングボルタンメトリー(AdSV)に基づいています。最初の測定前に、 メトローム DropSens 11L カーボン SPE を ex situ ビスマス膜で修飾する必要があります。
無毒であるビスマス膜の特性とAdSVを組み合わせることで、感度の面で優れた性能が得られます。 946 ポータブル VA アナライザー を使用した場合、析出時間30秒での検出限界は、ニッケルで約0.4 µg/L、コバルトで約0.2 µg/Lです。析出時間を延長することで、さらに検出限界を低減することが可能です。
このディスポーザブルセンサーは、機械的研磨や機械的洗浄などのメンテナンスを必要としません。本手法は、手動システムに最適です。
確認用標準溶液(β(Ni) = 2 µg/L、β(Co) = 2 µg/L)における連続3回測定の相対標準偏差は、それぞれニッケルで7%、コバルトで8%です。また、回収率はニッケルで100%、コバルトで94%です。
さらに詳しくは、下記アプリケーションノートをご参照ください。
特長
スクリーンプリント電極
- 機械的に堅牢で、低コスト、メンテナンス不要、小型化された固体電極
- 電極ホルダーはすべてのメトローム VA Stand(884 プロフェッショナル VA、797 VA コンピュートレース、663 VA Stand)に適合
- 耐溶液性の電極ホルダー
- SPEの迅速かつ容易な交換
- NiおよびCo、ならびにCdおよびPbの同時定量
- 低 µg/L から高 ng/L レベルでの検出限界
- 低 µg/L から高 ng/L レベルでの検出限界
このシリーズの他の記事
この記事では、スクリーンプリント電極(SPE)の概要と、それを用いた飲料水や環境中の重金属イオン定量について解説しました。本シリーズの他の記事では、以下の固体電極を用いた微量金属分析について取り上げています。