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無電解ニッケル(EN)めっきは、優れた耐食性と耐摩耗性、低コスト、均一な膜厚、大型で複雑な基材へのめっき処理能力で知られており、航空宇宙、建築、電子機器など多くの産業で広く使用されている表面処理方法です。特には、PCB(プリント回路基板)の製造工程で使用されています。無電解ニッケルめっきプロセスでは、高品質な薄膜を形成し、要求仕様を満たすために、いくつかのパラメータをモニターする必要があります。このコラムでは、無電解ニッケルめっき浴中の安定剤(Pb、Sb(III)、Biなど)の濃度モニタリングに、メトロームの水銀フリーセンサーを使用する方法について説明します。

無電解ニッケルめっきプロセスの概要

無電解ニッケル(EN)めっきは、化学めっきまたは自己触媒めっきプロセスとして知られており、電流を使用せずに異なる基材上にニッケル合金を析出させることに基づいています。このプロセスは、図1のような特定のニッケルめっき浴中で行われます。無電解ニッケルめっき浴は、通常、ニッケル塩、還元剤、pH調整剤、安定剤、錯化剤など、いくつかの主要成分を含有します。めっき浴の具体的な組成はさまざまで、特定のめっき特性を得るため、またはめっきプロセスの効率を向上させるために、追加成分を加えることもあります[1]。

図 1. 無電解ニッケルめっき浴の例

無電解ニッケル(EN)めっきプロセスは、基材表面にニッケル の初期層が形成されると、自然に進行します。無電解ニッケルめっき液では、めっき速度を制御し、めっき浴の無秩序なプレートアウト(分解)を防ぐため、安定剤が重要な役割を果たします[2]。望ましい性能を達成するためには、安定剤濃度を最適なレベルに保つことが重要です。公称安定剤濃度の大幅な変動は、析出速度、浴安定性、エッジ部の析出不良、あるいはめっき反応の完全停止に影響する可能性があります。したがって、最適なめっきプロセスには、安定剤濃度のモニタリングが不可欠となります。

ボルタンメトリー

ボルタンメトリー(VA)は、重金属イオンの定量に電気化学センサーを使用します。印加電位の関数として電流を測定することで、無電解Niめっき浴の安定剤として一般的に使用される Pb、Bi、Sb(III)を含む溶液中の異なるイオンの濃度を測定することが可能です[3]。

ボルタンメトリー(VA)は、原子吸光光度法(AAS)や誘導結合プラズマ分光法(ICP)のような他の分析技術に比べて、次のような、いくつかのメリットがあります[4]:

Benefits of using voltammetric analysis (VA) over other analytical techniques.
  • 感度 (Sensitivity): ボルタンメトリー(VA)は、ppb (µg/L)あるいはppt (ng/L)の低濃度の電気活性種を測定することができます。このため、無電解ニッケル(EN)めっき浴中の微量イオンのモニタリングに理想的な手法です。
  • 選択性 (Selectivity): 高選択性分析技術であるVAは、無電解ニッケル(EN)めっき液のような複雑なマトリックス中の異なる電気活性種(Pb、Sb(III)、Biなど)を区別することができます。
  • シンプルさ (Simplicity): ボルタンメトリー(VA)は、セットアップと使用が比較的容易で、原子吸光光度法(AAS)やI誘導結合プラズマ分光法(ICP)のようにフレーム (火炎) やプラズマを使用する必要がありません。このため、生産現場でもVAシステムの設置や稼働が容易となります。
  • 低コスト (affordability): 総所有コストは、AASやICPのような分析装置に比べて著しく安くなります。
  • 携帯性 (Portability):ボルタンメトリー(VA)は、現場で作業しているときでも、簡単に電気活性種を測定することができる。

  • 自動化 (Automation):ボルタンメトリー(VA)測定に使用されるメトロームの装置は、柔軟性の高いモジュール式です。例えば、必要に応じて、マニュアルの884プロフェッショナルVAにサンプルチェンジャー、ドージング装置、リンスポンプを装備することができます。これにより、図2に示すように、MVA-22システムを使用した全自動ボルタンメトリー測定が容易になります。
図 2. メトローム 全自動MVA-22システム

ボルタンメトリーセンサー - 水銀 (Hg) の有無

長年にわたり、吊り下げ水銀滴電極 (HMDE) は、重金属のボルタンメトリー測定に広く使用されてきました。水銀ベースの電極は、その高い感度、広い陰極分極範囲、および自動的に再生可能で再現可能な電極表面により、微量金属の測定に最適です。

電気分析におけるそのユニークな特性にもかかわらず、水銀は有毒であり、生体内に蓄積する可能性があります。金属水銀の環境への有害な影響を軽減し、重金属のボルタンメトリー測定で水銀を置き換えるために、水銀フリーのセンサーが必要でした[5]。「水銀(Hg)フリー」という用語は、金属水銀が使用されていないことを意味します。

メトロームは、重金属のボルタンメトリー測定に使用される電極の水銀 (Hg) 置換に関連する課題に立ち向かうため、多大なる努力を払ってきました。これにより、4つの新しい水銀(Hg)フリーセンサーが開発されました(図3)。

図 3. メトロームは、さまざまな水溶液中の重金属を高感度に測定するために設計された、いくつかの水銀 (Hg) フリーセンサーを提供しています。

無電解ニッケル浴中の安定剤濃度をモニターするための水銀(Hg)フリーセンサーの使用

ホワイトペーパー「さまざまな水サンプルのボルタンメトリー分析のための環境に優しい代替品」で実証されているように、scTRACE Gold およびbismuth drop (Bi drop) electrode は、さまざまな水溶液中の重金属の測定において優れた性能を発揮することが実証されています。水サンプルに加えて、これらの電極は無電解 Ni めっき浴の安定剤濃度のモニタリングにも効果的に使用できます。これを実証するために、次のセクションでは、bismuth drop (Bi drop) electrode による Pb の測定と、scTRACE Gold 電極による Bi および Sb(III) の測定について説明します。

Bi drop electrode 用いた鉛 (Pb) の定量

鉛(Pb)は、無電解Niめっき浴に使用される最も効率的な安定化剤のひとつです。通常、無電解ニッケル(EN)めっき浴には約1mg/Lの鉛(Pb)が含まれています。

この応用例では、水銀(Hg)フリーの Bi drop electrode が使用されています。このメソッドの使用濃度範囲(0.5~25 µg/L)のため、正確な測定結果を得るためには、まずサンプルを希釈する必要があります。鉛(Pb)濃度の測定は、0.1 mol/Lクエン酸中でアノードストリッピングボルタンメトリー(ASV)により行われます。連続10回の測定後、回収率は94%~101%、相対標準偏差(変動係数)は3%以下であったと報告されています。最適な反復性と再現性を保証するために、全自動MVA-22システム図2)が推奨されます。

0.3mg/Lの鉛(Pb)を含む無電解Niめっき液サンプル(NB1)のBi drop electrodeによる鉛 (Pb) の測定結果を図4に示します。

図 4. 300µg/Lの鉛(Pb)を含むNB1中の鉛(Pb)を水銀 (Hg) フリーBi drop electrodeで測定した例(析出時間60秒、サンプル量300µL、結果:313µg/L)。 サンプルは分析前に希釈しました。

図 5 には、異なる濃度の 鉛 (Pb)(0.1 mg/L、0.3 mg/L、1.2 mg/L) を添加した 2 つの異なる無電解 Ni めっき浴 (NB1 と NB2) から得られた回収率を示しています。

図 5. 鉛 (Pb) 濃度の異なる2種類の無電解ニッケル(EN)めっき浴(NB1とNB2)中で、Bi drop electrode を用いて測定した鉛の回収率 10回の連続測定を行い、それぞれの場合の平均値を算出しています

scTRACE Gold electrode を用いたビスマス (Bi) と3価アンチモン (Sb(III))の定量

潜在的に有害物質を含まない消費者製品のニーズが高まっているのは、世界中で政府の規制がますます厳しくなっていることが背景にあり、この傾向は今後も続くと思われます。欧州連合(EU)におけるそのような規制のひとつに、電気・電子機器から特定の重金属を排除することを求める RoHS directive 2011/65/EU があります。この指令では、規制物質のひとつに 鉛(PB) が挙げらます。

これは、鉛 (Pb) を安定剤として使用する 無電解ニッケル(EN) めっきプロセスに多大なる影響を及ぼします。これは、ニッケル (Ni) のめっき中に少量の鉛 (Pb) が共析するためです。これらの規制に準拠するために、めっき業界では、無電解ニッケル(EN) めっきプロセスで安定剤として使用できる許容可能な鉛 (Pb)フリーの代替品 (ビスマス (Bi) やアンチモン (Sb)など) を見つけることができました。ただし、無電解ニッケル(EN) めっきに最適な条件を維持するために、めっき浴中のビスマス (Bi)またはアンチモン (Sb)の濃度を依然としてモニターする必要があります。

無電解ニッケル(EN) めっき液中のビスマス (Bi) と 3価アンチモン (Sb(III)) の定量は、メトロームの 水銀 (Hg) フリーセンサの一つである scTRACE Gold で行うことができます。測定は、全自動のMVA-22システム(図2)を用いて、酸性電解液中でアノードストリッピングボルタンメトリー(ASV)により行われます。

回収率はビスマス (Bi)で103%~106%、3価アンチモン (Sb(III))で93%~110%であり、10回の連続測定における相対標準偏差 (変動係数)は、ビスマス (Bi)で4%以下、3価アンチモン (Sb(III))で8%以下でした。この革新的なセンサーを用いた手法の主なメリットは、再現性が高くメンテナンスが不要で、コスト効率に優れていることです。

無電解ニッケル(EN) めっき液中の scTRACE Gold を用いたビスマス (Bi)と3価アンチモン (Sb(III)) のボルタンメトリー分析の例を、それぞれ図 6 図 8 に示します。図7図9 には、異なる濃度(0.1 mg/L、0.3 mg/L、1 mg/L)のビスマス (Bi)と3価アンチモン (Sb(III))をスパイクした2つの異なる無電解ニッケル(EN) めっき液(NB1とNB2)から得られた回収率を示しています。

図 6. 水銀 (Hg) フリーの scTRACE Gold 電極を用いた100 µg/L の ビスマス(Bi)を含む NB1 中ビスマス(Bi)測定の例(析出時間 30 秒、サンプル量 250 µL、測定結果 99 µg/L) サンプルは分析前に希釈しました。
図 7. ビスマス(Bi)濃度が異なる2種類の無電解ニッケル(EN)めっき液(NB1とNB2)中で、scTRACE Gold electrode を用いて測定したビスマス(Bi)の回収率 平均値を算出するために、10回の連続測定を行いました。
図 8. 水銀 (Hg) フリーの scTRACE Gold 電極を用いた100 µg/L 3価アンチモン(Sb(III))を含む NB1 中の 3価アンチモン(Sb(III))の定量例 (析出時間 30 秒、サンプル量 250 µL、測定結果 95 µg/L) サンプルは分析前に希釈しました
図 9. アンチモン (Sb) 濃度の異なる2種類の無電解ニッケル(EN)めっき液(NB1とNB2)中で、scTRACE Gold electrode を用いて測定した 3価アンチモン(Sb(III))の回収率 平均値を算出するために、10回の連続測定を行いました。

結論

無電解ニッケル (EN) めっきプロセスでは、めっき速度を制御し、無秩序な分解を防ぐために、様々な安定化剤が使用されます。最も効率的に使用される安定化剤のひとつは鉛 (Pb) ですが、近年、規制が強化されているため使用されなくなってきました。その代替えに、ビスマス (Bi) や3価アンチモン (Sb(III)) などの他の適切な材料が、無電解ニッケル (EN) めっき液の安定化剤に使用されています。

安定化剤濃度は一定に保つ必要があるため、最適なメッキプロセスには安定化剤濃度をモニターすることが不可欠です。そのための最良の方法の 1 つは、ボルタンメトリー分析 (VA) を使用することです。水銀 (Hg) ベースの ボルタンメトリー分析 (VA)センサーは、その感度、自動的に再生可能で再現可能な電極表面、および広い陰極分極範囲により一般的でしたが、水銀 (Hg)は有毒であり、また環境に有害であるため、水銀 (Hg)を含まない ボルタンメトリー分析 (VA) センサーの開発が待たれていました。

メトロームは、重金属のボルタンメトリー分析 (VA)に使用する水銀 (Hg)フリー電極を開発し提供しています。鉛 (Pb)の測定には Bi drop electrodeが適しており、無電解ニッケル (EN) めっき液中の ビスマス (Bi) および3価アンチモン (Sb(III))の測定には scTRACE Gold electrode が適していることが実証されています。これらの水銀 (Hg)フリー センサーをボルタンメトリー分析 (VA)に用いると、さまざまなメリットが得られます。

無電解ニッケル(EN)めっき液中の安定化剤含有量の測定にメトロームの水銀(Hg)フリーセンサーを使用するメリット:

  1. メンテナンスフリー、かつセンサー寿命が長い
  2. 優れた分析のパフォーマンス
  3. 低コスト
  4. 法的規制への対応
  5. 水銀(Hg)を使用しない
  6. トップクラスのサポート
  7. 884プロフェッショナルVAシステムのモジュール性と自動化の可能性

参考文献

[1] Sudagar, J.; Lian, J.; Sha, W. Electroless Nickel, Alloy, Composite and Nano Coatings – A Critical Review. Journal of Alloys and Compounds 2013, 571, 183–204. DOI:10.1016/j.jallcom.2013.03.107

[2] Loto, C. A. Electroless Nickel Plating – A Review. Silicon 2016, 8 (2), 177–186. DOI:/10.1007/s12633-015-9367-7

[3] Bonin, L.; Vitry, V.; Delaunois, F. Inorganic Salts Stabilizers Effect in Electroless Nickel-Boron Plating: Stabilization Mechanism and Microstructure Modification. Surface and Coatings Technology 2020, 401, 126276. DOI:10.1016/j.surfcoat.2020.126276

[4] Barón-Jaimez, J.; Joya, M. R.; Barba-Ortega, J. Anodic Stripping Voltammetry – ASV for Determination of Heavy Metals. J. Phys.: Conf. Ser. 2013466, 012023. DOI:10.1088/1742-6596/466/1/012023

[5] Švancara, I.; Mikysek, T.; Sýs, M. Polarography with Non-Mercury Electrodes: A Review. Electrochemical Science Advances n/a (n/a), e2100205. DOI:10.1002/elsa.202100205

Green alternative methods for voltammetric analysis in different water matrices

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ストリッピング ボルタンメトリーでは、電気化学センサーを使用して、さまざまなタイプのサンプルに含まれる重金属イオンを測定します。これらのサンプルには、ボイラー給水、飲料水、海水、飲料、さらにはめっき液などの工業用サンプルも含まれます。低い検出限界 (μg/L から ng/L の間)、異なる酸化状態 (例えばAs(V) と As(III) など) および遊離金属イオンと結合金属イオンの区別が可能であり、所有コストの低さ、迅速な分析(約 10~15 分) により、ストリッピング ボルタンメトリーは定置式と移動式の両方の用途で魅力的です。法的規制に準拠し、金属水銀 (Hg) の使用を排除するために、メトロームは重金属測定用の 水銀(Hg) フリーセンサーを用いた代替法を開発しました。これらの代替法の概要は、このホワイト ペーパーに記載されています。

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作成者
Tymoczko

Dr. Jakub Tymoczko

Application Specialist VA/CVS
Metrohm International Headquarters, Herisau, Switzerland

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