AN-T-250
2026-06
電位差自動滴定装置によるレアアース (希土類元素) の分析
Accurate and precise back-titration of rare earth elements with the copper-selective electrode
概要
レアアース(希土類元素)は、ランタノイド系列の15元素に加え、スカンジウムおよびイットリウムを含む計17元素から構成されています。これらの希土類元素(REE)は、主に電池、ナノテクノロジー、太陽光発電、医療技術、航空宇宙分野、および軍事技術分野で利用されています。
レアアース(希土類元素)鉱床の採算性を評価するためには、鉱石や岩石中のレアアース(希土類元素)濃度を測定する必要があります。採掘された鉱石は粉砕後、溶解、分離、精製されますが、この工程全体を通じて、レアアース(希土類元素)およびその他の元素の含有量がモニタリングされます。この段階においてレアアース(希土類元素)の質量分率を測定することは極めて重要であり、多大な労力を要します。
本アプリケーションノートでは、Cu-ISE(銅イオン選択性電極)を用いた迅速かつ高精度な逆滴定法を紹介します。この方法により、他の元素と共存している場合でも複数の希土類金属を明確に区別することができ、ほぼ100%の回収率で定量分析することが可能です。
はじめに
レアアース(希土類元素)の滴定法は、重量分析法と並ぶ絶対分析法であり、クロマトグラフィーや分光分析法の基準法としてしばしば用いられています。滴定法とICP(誘導結合プラズマ分析法)の試料前処理はほぼ同一であるため、この用途において滴定法はコストおよび作業負荷の面で非常に大きなメリットを有しています。さらに、逆滴定法は柔軟性が高く、個々のサンプルに合わせて容易に適用できるため、迅速な現場分析法としても有効です。
まず、溶解および緩衝化したレアアース(希土類元素)サンプル(Ln³⁺)に、標定済みのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を過剰量添加します。これにより、EDTAとレアアース(希土類元素)との錯体が形成されます。その後、未反応の過剰なEDTAを硫酸銅溶液で逆滴定します。
滴定反応は、簡略化すると次のように表されます。
Ln³⁺ + EDTA → Ln(EDTA)
CuSO₄ + EDTA(過剰分)→ Cu(EDTA)
使用された硫酸銅の量から、サンプル中のレアアース(希土類元素)含有量を算出することができます。
サンプルとサンプル前処理
本アプリケーションでは、イットリウム、スカンジウム、ランタン、セリウム、ネオジムの標準溶液を用いて分析手法を実証しています。さらに、ランタンとスカンジウムの混合溶液、およびスティーンストラップ石(steenstrupine)※によく類似した合成鉱物サンプルについてもテストを実施しました。
試料前処理は不要です。
※スティーンストラップ石(steenstrupine):レアアース(希土類元素)を多量に含む希土類リン酸塩鉱物
実験
本分析は、OMNIS サンプルロボット S – WSM、OMNIS ドージングモジュールを搭載したOMNIS プロフェッショナルタイトレーター、銅イオン選択性電極(Cu-ISE)を用いて実施します(図1)。
適量のサンプルを滴定ビーカーに秤量し、酢酸緩衝液および標定済みEDTA溶液を添加します。一定時間静置した後、標定済み硫酸銅(CuSO₄)溶液を用いて、第一または第二当量点を超えるまで滴定を行います。
測定結果
表1に示すように、レアアース(希土類元素)標準サンプルの分析結果は、高い回収率を示しており、本逆滴定法のロバスト性を裏付けています。
表2には、ランタンとスカンジウムの混合試料の分析結果を示します。これにより、両希土類元素を分離して定量できる可能性が示されており、いずれの元素についても良好な回収率が得られています。
質量濃度8.000 g/Lのセリウムを含み、おおよその分子組成が Na₇.₉HXCe₆Mn₁.₆Fe₁.₈Zr₀.₃P₄.₅Si₁.₇Cl₄.₄N₇.₉S₆Oᵧ である合成希土類鉱物「スティーンストラップ石(steenstrupine)」の分析結果を表3にまとめています。
ランタンとスカンジウムの混合サンプルの代表的な滴定曲線を図2に示します。
| サンプル [ n = 6 ] | 濃度 [ g/L ] | 回収率 [ % ] |
|---|---|---|
| イットリウム | 10.07 | 100.9 |
| スカンジウム | 10.07 | 100.6 |
| ランタン | 13.88 | 99.6 |
| セリウム | 16.01 | 100.1 |
| ネオジウム | 10.06 | 100.6 |
| サンプル [ n = 2 ] | 濃度 [ g/L ] | 回収率 [ % ] |
|---|---|---|
| ランタン | 6.88 | 98.7 |
| スカンジウム | 5.13 | 102.4 |
| サンプル [ n = 3 ] | 濃度 Ce(III) [ g/L ] | 回収率 [ % ] |
|---|---|---|
| スティーンストラップ石(steenstrupine) | 7.93 | 99.1 |
結論
逆滴定法は、レアアース(希土類元素)の測定において、ICP(誘導結合プラズマ分析法)などの従来の分析手法に代わる、費用対効果が高く、かつ高精度な分析手法です。測定手法としての電位差自動滴定は、多種多様なレアアース(希土類元素)鉱物に柔軟に対応できます。また、分析マトリックスの最適化と錯体化学の活用により、混合サンプル中の特定のレアアース(希土類元素)同士を分離して定量することも可能です。
OMNIS タイトレーター、OMNIS ドージングモジュール、Cu-ISE(銅イオン選択性電極) を搭載したOMNIS サンプルロボット S – WSMによる自動分析システムは、高度な自動化と優れた操作性を実現するとともに、高機能ソフトウェアと組み合わせることで柔軟な分析を可能にします。
参考文献
- Misumi, S.; Taketatsu, T. Complexometric Titration of Rare Earth Elements. Dissolution of the Rare Earth Oxalate with Ethylenediaminetetraacetic Acid and Back Titration with Magnesium Sulfate. bull. Chem. Soc. Jpn. 1959, 32 (8), 873–876. DOI:10.1246/bcsj.32.873
- Seel, F. Die Komplexometrische Titration. Die Chemische Analyse. Band 45. Von G. Schwarzenbach Und H. Flaschka. Ferdinand Enke Verlag, Stuttgart 1965. 5. Neubearbeitete Aufl., XVI, 339 S., 42 Abb., 12 Tab., 48,– DM. Angewandte Chemie 1966, 78 (8), 455–455. DOI:10.1002/ange.19660780817
- Chelates in Analytical Chemistry – A Collection of Monographs; Flaschka, H. A., Barnard, A. J., Eds.; Marcel Dekker, Incorporated, 1967; Vol. 3.
- Krebs, D.; Furfaro, D. Concentrated Hydrochloric Acid Leaching of Greenland Steenstrupine to Obviate Silica Gel Formation. In Rare Earth Elements - Emerging Advances, Technology Utilization, and Resource Procurement; IntechOpen, 2022. DOI:10.5772/intechopen.107012