AN-U-049
2022-06
ポストカラム反応イオンクロマトグラフィーによる飲料水中の臭素酸イオン測定
Trace bromate analysis with IC-UV/VIS according to ISO 11206
概要
安全な飲料水は人間の生命に不可欠であり、また非常にしばしば特権でもあります。水源が地表水であっても地下水であっても、病原性細菌の存在、味の悪さ、検知できる臭気があるため、飲料水として適切な品質を保証するには消毒処理が必要です [1,2]。塩素処理は、標準的な水処理プロセスとして20世紀初頭に導入されました。このプロセスは、人々の健康を守り、水系微生物感染症や疾病による死亡率を低下させることに貢献しました [3,4]。しかし、塩素処理では、塩素が水中の有機成分と反応することで、有害な副生成物(例:トリハロメタン)が生成されます。
このような反応を避けるため、現代の消毒処理では、過マンガン酸塩やオゾンなどの強力な酸化剤が使用されています。しかし、水に臭化物が含まれている場合、オゾン処理や酸化により、発がん性が懸念される臭素酸塩が生成されます。そのため、臭素酸塩は飲料水中で最大10 μg/Lに規制されており、水質を確保するために定期的なモニタリングが必要です。イオンクロマトグラフィー(IC)は、ISO 11206およびEPA Method 317に準拠して、微量レベルの臭素酸塩であってもモニタリングできる、堅牢で効率的かつ高感度な手法です。臭素酸塩が三ヨウ化物を生成する特異的なポストカラム反応(PCR)により、炭酸塩や塩化物を多く含むマトリックス中でも、1 μg/Lという低濃度まで測定できます。
サンプルとサンプル前処理
本手法の信頼性と妥当性を検証するため、スパイクあり、およびスパイクなしの水道水(スイス、チューリッヒ)とミネラルウォーター(Evian)のサンプルを分析しました。スイスの水道水サンプルへのスパイク(臭素酸塩0.2 μg/Lおよび1 μg/L)に加えて、妨害がないことを示すため、炭酸塩や塩化物を多く含むマトリックス中の微量の臭素酸塩についても調べました。これらの試験では、Evian水(炭酸塩357 mg/L、塩化物5 mg/L)と、スパイクした超純水(UPW、炭酸塩100~500 mg/Lおよび塩化物5~100 mg/Lを含む)に、臭素酸塩0.2 μg/Lを添加しました。
実験
ポストカラム反応(PCR)とそれに続くUV/VIS検出を組み合わせたIC分離は、水中の極めて低濃度の臭素酸塩を測定するための専用の手法です。分析カラムでマトリックス成分から臭素酸塩を分離した後、PCRにより三ヨウ化物が生成されます(反応1)。この反応は非常に特異的であり、352 nmの波長で三ヨウ化物を検出することで、臭素酸塩を高感度に測定できます。高い選択性により、妨害の影響は大幅に低減されます。これにより、炭酸塩や塩化物を多く含むマトリックスであっても、微量の臭素酸塩を検出できます。
セットアップはシンプルで(930 Compact IC Flex、947 Professional UV/VIS検出器、サンプルプロセッサ、試薬を正確に添加するためのDosino)、US EPA Method 317およびDIN EN ISO 11206に準拠しています。臭素酸塩とその他の陰イオンの分離には、Metrosep A Supp 17 - 250/4.0 カラムと硫酸-モリブデン酸塩溶離液を使用します。PCRの触媒としてモリブデン酸塩を含む溶離液は、カラムに連続的に送液されます。反応ブロックに入る前に、三ヨウ化物を生成させ、続いてUV/VIS検出を行うため、Dosinoによりヨウ化カリウムが添加されます(反応1)。このセットアップの検量線は、注入量1000 μLで1~20 μg/Lの範囲でした。
しかし、1 μg/L未満の非常に低い濃度で臭素酸塩を測定する必要がある場合、特に高濃度の塩化物や炭酸塩が共存する場合でも、これらの要件を満たすようにセットアップを簡単に変更できます。この場合も、PCRとそれに続くUV/VIS検出を用いることで、臭素酸塩を選択的に測定できます。複雑なマトリックス中の臭素酸塩を分析分離するには、高容量カラムMetrosep A Supp 10 - 100/4.0 とアルカリ性の炭酸水素塩溶離液を使用します。ベースラインの安定性を高め、最適な反応条件を得るため、PCR試薬を添加する前にケミカルサプレッションを使用します(図1)。この場合、注入量1325 μLとすることで、0.05~5 μg/Lの範囲で臭素酸塩を確実に検出できます。
結果と考察
図2Aは、Metrosep A Supp 17カラムと酸性溶離液を用いた臭素酸塩の測定結果を示しています。シンプルなセットアップ(つまり、試薬添加用のDosinoが1台)と注入量1000 μLで、1~20 μg/Lの臭素酸塩濃度を高い精度で測定できます。
サンプルマトリックス中に塩化物や炭酸塩が存在すると、臭素酸塩の保持時間やピーク形状に影響を及ぼすことがあります。これを克服するため、高容量のMetrosep A Supp 10カラムにより、PCRおよびUV/VIS検出の前に、これらのマトリックス成分から臭素酸塩を効率的に分離します。その結果、炭酸塩200 mg/Lおよび塩化物100 mg/Lまでを含むマトリックス中でも、0.05 μg/Lまでの臭素酸塩を検出できます(図2B)。どちらのセットアップでも臭素酸塩の保持時間は同程度で、10分未満で溶出するため、1日あたり少なくとも100サンプルの分析が可能です。
マトリックスの濃度が高いUPWで人工的に調製したサンプルとスイスの水道水について、サンプルのスパイク回収率は85~105%の範囲でした。水道水サンプルには、一部臭素酸塩が含まれていました(2.3 μg/L)。一方、炭酸塩と塩化物を多く含むEvianのサンプルからは、臭素酸塩は検出されませんでした。0.2 μg/Lの微量レベルのスパイクは、回収率85%で測定されました。
UV/VIS検出には352 nmの波長を選択しました。これは、溶離液やサンプルに含まれる一部の化学種がこの波長では吸収しないため、ベースラインノイズが低減されるからです。
まとめ
水の消毒(例:塩素処理)は、病気から私たちを守るために必要なプロセスです。残念ながら、不快な薬品臭や、危険な消毒副生成物(例:発がん性のあるトリハロメタン)の生成といった欠点を伴うことがあります。オゾン処理などの現代の技術は水の風味を向上させますが、処理前の原水に臭化物やその他のハロゲンが存在すると、臭素酸塩やハロ酢酸などの発がん性副生成物が生成されることがあります。そのため、飲料水中のこのような消毒副生成物のモニタリングは非常に重要です。EUおよびUS EPAの規制では、飲料水中の臭素酸塩の最大許容濃度は10 μg/Lと定められています。EPAは、飲料水の最大汚染目標をゼロとすることで、さらに低い臭素酸塩濃度限界を規定しようと試みています [5]。オゾンで消毒されるボトル入りのナチュラルミネラルウォーターおよびスプリングウォーターについては、EUが臭素酸塩の限界値を3 μg/Lに引き下げています [6]。排水処理に関しては、処理水が河川などの水源に直接流入するため、臭素酸塩の生成が環境にとって重大な脅威となる可能性があります。臭素酸塩の高感度な検出は不可欠であり、低い検出下限に加えて、さまざまなマトリックスに適用できる柔軟性も求められます。
PCRとUV/VIS検出を組み合わせたICは、EPA Method 317およびISO 11206の要件に準拠した、臭素酸塩分析のための特異的で高感度な手法です。この手法は柔軟性が高いため、マトリックス負荷の高い水サンプルと同様に、飲料水も容易に分析できます。分離カラムとPCR試薬にわずかな調整を加えるだけで対応できます。さらに、この手法は自動化されているため、効率的な分析と高いサンプル処理能力が得られ、ルーチン運用に最適です。セットアップ全体は、インラインサンプル前処理技術(例:限外ろ過や希釈)でアップグレードすることができ、手法の効率をさらに高めるとともに、より複雑なサンプルマトリックスへと適用範囲を広げられます。
参考資料
- Boorman, G. A.; Dellarco, V.; Dunnick, J. K.; et al. 飲料水の消毒副生成物:レビューと毒性評価へのアプローチ。Environmental Health Perspectives 1999, 107, 207–217. https://doi.org/10.2307/3434484.
- Wille, A.; Proost, R.; Steinbach, A. 水中の臭素酸塩の微量測定。Österreichische Wasser- und Abfallwirtschaft 2010, 62 (11/12), 27–30.
- Mughal, F. 飲料水の塩素処理とがん:レビュー。J Environ Pathol Toxicol Oncol 1992, 11 (5–6), 287–292.
- Evans, S.; Campbell, C.; Naidenko, O. V. 米国の飲料水中の消毒副生成物に関連する累積がんリスクの分析。Int J Environ Res Public Health 2020, 17 (6), 2149. https://doi.org/10.3390/ijerph17062149.
- Bonacquisti, T. P. 飲料水事業者の視点から見た臭化物、臭素酸塩、オゾン処理。Toxicology 2006, 221 (2–3), 145–148. https://doi.org/10.1016/j.tox.2006.02.010.
- 欧州委員会。委員会指令2003/40/EC。天然ミネラルウォーターの構成成分のリスト、濃度限界および表示要件、ならびに天然ミネラルウォーターおよびスプリングウォーターの処理にオゾン富化空気を使用するための条件を定める。欧州連合官報 2003.
Internal references: AW IC CH6-1398-052020; AW IC AE-0126-112020