プリキャリブレーションを使って近赤外分析計をすぐ使う方法
ボタンを押すだけで近赤外分析をおこなえたら素敵ではありませんか? サンプルをセットして蓋を閉じ分析を開始する - プリキャリブレーションを利用すれば、近赤外分析計がすぐに使えます。
このパート4では、近赤外分析計を直接実験室で使用できる方法について解説しています。ここで紹介しているアプリケーションでは、装置をすぐに使用できて正確な結果が得られます。
次のトピックが取り上げられます(トピックにジャンプするにはクリックしてください):
プリキャリブレーションの利点
前回のコラム (Hどのようにして近赤外分析計をラボのルーチンワークに導入するか?) では、新規に導入したNIR分析計で実際のアプリケーションを作成し、それを稼働する流れを紹介しました。このプロセスは右図1に示されます。
作業のほとんどはキャリブレーションセットの作成にかかります。主要なメソッドで使われる測定範囲約40~50のサンプルの測定をする必要があります。NIRソフトウェアを使用して、同じサンプルに対して記録されたNIRスペクトルに対応する値をリンクする必要があります(図1:ステップ1)。
その後、検量線モデルを作成するためにスペクトルの視覚的な特徴を識別し、これらの変化を従来分析値と関連付けて回帰計算を行う必要があります(図のステップ 2)。その後、ソフトウェアによる検証(バリデーション)の後、検量線モデルは日常分析に使用できるようになります。
上記で解説した工程は一定の労力と時間を必要とします。なぜなら、多くの場合、予測される濃度範囲を網羅するサンプルを収集し、そのNIRスペクトルを測定する必要があるからです。そのため、ステップ1と2を省略できれば、NIR分析計を導入初日から稼働することができ非常に有益です。
これは単なる希望的観測ではなく、プリキャリブレーションを使用した特定のアプリケーションにおいて実現します。
プリキャリブレーションとは何ですか?
プリキャリブレーションは、即座に展開でき、最初から満足のいく結果を提供する検量線モデルです。これらのモデルは、幅広いパラメータ範囲をカバーする実際の製品スペクトルの数百(100〜600)に基づいています。
つまり、図1のステップ1および2は不要であり、代わりにプりキャリブレーションの検量線モデルを直接日常的な分析に使用できます。これは図 2に示されています。
プリキャリブレーションはどのように機能しますか?
各プリキャリブレーションはデジタルファイルとして提供され、それをMetrohm Vision Airソフトウェアにインポートする必要があります。
- 新しい機器(Vision Airソフトウェアを含む)のインストールします。
- 測定温度やサンプルカップ種などの測定設定を含むメソッドを作成します。
- プリキャリブレーションをインポートし、メソッドにリンクさせます。
必要なことはこれで全部です!
ここまでで新しい機器は信頼性のある測定結果を提供する準備ができました。そのプリキャリブレーションが日常の分析の耐えうる結果を提供できるかどうかの確認のために、従来分析値既知のいくつかのコントロールサンプルを測定することをお勧めします。
プリキャリブレーションの最適化
ケースによっては、そのプリキャリブレーションで日常分析での運用まで至らないことがありますが、それには様々な理由が考えられますが、一般的には下記の3つのケースが考えられます。
- コントロールサンプルで測定結果が従来分析値からわずかに外れている。
- 測定結果は受け入れられるが、誤差の標準偏差がやや大きい。
- 測定結果が従来分析値から著しく逸脱している。
測定結果が従来分析値から著しく逸脱している。
ケース1:コントロールサンプルで測定結果が従来分析値からわずかに外れている。
コントロールサンプルの測定結果がわずかに外れている場合、スロープ・バイアス補正がお薦めの解決策です。このプロセスは右図に示されています。
図3上ではプリキャリブレーションでの測定結果が全体に傾向を持って逸脱していることが分かります。このような場合にはVision Airソフトウェアで検量線モデルに対してスロープ・バイアス補正を行うことができます。この補正を行うと図3下のように測定結果は非常に良く一致します。
ケース2:測定結果は受け入れられるが、誤差の標準偏差がやや大きい。
ほとんどの場合、これらの挙動は、プリキャリブレーションの範囲が測定者の対象とする分析範囲よりはるかに広い場合にみられます。
例えば、全体の範囲の下端での値の測定を考えてみてください。プレキャリブレーションのエラーは全体の範囲にわたって計算されるため、平均エラー(SECV=交差検証の標準誤差)の影響が、完全な範囲の中央の値と比較して下端の値にはるかに大きいです。これは図 4と表 1で示されています。
表1. 図4のプリキャリブレーションの異なる範囲領域での誤差指標。0-200の全体範囲のSECVに比べて、0-36の範囲のSECVがはるかに小さいことに着目してください。
Range | R2 | SEC | SECV |
0–200 | 0.996 | 3.8 | 3.9 |
0–36 | 0.994 | 0.77 | 0.81 |
32–109 | 0.986 | 3.3 | 3.8 |
91–200 | 0.977 | 3.6 | 3.7 |
この場合の推奨されるアクションは、プリキャリブレーションの任意の範囲のサンプルを削除し、興味のある(測定対象)範囲のみを残すことです。
表1からは、全範囲(0-200)のSECVが狭い範囲(0-36)のSECVよりもはるかに大きいことが明らかです。これはプリキャリブレーションから数値の大きいサンプルを削除すると(0-36の範囲のサンプルのみを残す)、変更されたプリキャリブレーションははるかにSECVが小さくなることを意味します。
ケース3:測定結果と従来分析手法の関係
まず、分析を行おうとするサンプルが特許化されているような場合を考えてみましょう。例として、特定のメーカーが特許を取得したポリオールを生産しています。これらの特許化されたサンプルは、プリキャリブレーションの標準的なサンプルスペクトルの中に含まれていません。そのため、プリキャリブレーションはこのような特許化されたサンプルに対して満足な結果を得ることができません。
別の例が図5に示されています。ここでは、従来分析の手法から得られた値(青い点)がプリキャリブレーションモデルから得られた値から著しく逸脱していることが観察されます。
この例は私たちが観察した実際の顧客のケースから取られています。
最初に、結果を確認する際に私たちは少し戸惑いましたが、お客様と話した結果、理由は明らかになりました。彼らは、水酸基数を自動滴定器ではなく、手動で滴定することを選択していたためです。
したがって、コントロールサンプルの適合が不満足なのは、コントロールサンプルの手動滴定の精度が低いためであり、これはプレキャリブレーションの品質とは無関係です。
詳細情報については、以下の当社のコラム記事をご参照ください。手動滴定の主なエラーの原因について解説しています。
メトロームが提供する近赤外分析計のプレキャリブレーション
メトロームでは、さまざまなアプリケーション向けにいくつかのプリキャリブレーションを提供しています。これらはTable 2にリストアップされており、プリキャリブレーションの最も重要なパラメータとともに表示されています。詳細情報をご希望の方は、リンクをクリックしてください。
表2. メトローム Vision Airソフトウェアで利用可能なプリキャリブレーションの概要
プレキャリブレーション | 重要な測定項目 |
ポリオール | 水酸基価 (ASTM D6342) |
ガソリン | RON、MON、アンチノックインデックス、芳香族化合物、ベンゼン、オレフィン |
ディーゼル | セタン指数、密度、引火点 |
航空燃料 | セタン指数、密度、芳香族化合物 |
パーム油 | ヨウ素価、遊離脂肪酸、水分 |
パルプ&紙 | カッパー価、密度、強度パラメータ |
ポリエチレン (PE) | 密度、固有粘度(IV) |
ポリプロピレン (PP) | メルトフローレート(MFR) |
ポリエチレンテレフタレート (PET) | 固有粘度(IV)、酸価など |
ポリアミド (PA 6) | 固有粘度(IV)、アミン末端、カルボキシル末端 |
大麻 | THC、CBD、CBG含有量、水分 |
便の分析 | 脂肪、カロリー、窒素含有量、水分 |
結論
プレキャリブレーションは、様々な実際製品のスペクトルに基づく検量線モデルです。これにより、ユーザーは初期モデルの開発部分をスキップし、初日から機器を使用できるようになり、時間と費用の両方を節約できます