【コラム】ラボのワークフローにNIR分光法を導入する方法
2024/01/08
記事
近赤外分光法(NIRS、またはNIR分光法)を分析ワークフローにうまく組み込むことができれば、ラボは迅速かつ高精度で、しかも非破壊のルーチン分析手法の恩恵を受けることができます。では、NIR分光法をラボのワークフローに導入するには、どのように進めればよいのでしょうか。
近赤外分光法に関する本シリーズの第3回では、実際の事例を用いながら、ラボにNIR分析法を導入するために必要なステップについて説明します。
まず、以下のような前提条件を設定します。
- お客様の会社では高分子材料を製造している。ラボでは、水分測定を迅速化するために(カールフィッシャー滴定の代替として)、また固有粘度測定を迅速化するために(粘度計による測定の代替として)、NIR分析装置を導入した。
- ラボには新しいNIR分析装置が納入されたばかりである。
水分測定や固有粘度測定はいずれも定量分析の例です。しかし、NIR分光法は多くの場合、導入してすぐにこれらの分析へ使用できるわけではありません。まずNIR検量モデル(予測モデル)を作成する必要があります。
図1 に示すように、NIR分光法の導入には以下のステップが含まれます。
ステップ1:検量セットを作成する
本シリーズの第1回(「NIR分光法とは?」 )で学んだように、NIR分光法は二次分析法です。つまり、NIR分析装置は、一次分析法によって得られた分析値に対応するスペクトルを用いて「学習」させる必要があります。本例における水分および固有粘度の分析では、一次分析法としてカールフィッシャー滴定法と粘度測定法を使用します。この場合、一次分析法による測定値は既知です。
堅牢な分析法を構築するためには、学習用試料群、すなわち検量セットに含まれる試料が、対象パラメータの予想される濃度範囲全体をカバーしている必要があります。これは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの手法において、検量線が予想濃度範囲全体を網羅する必要があることと同じ考え方です。そのため、例えば対象物質の水分含有量が0.35~1.5%の範囲にあると予想される場合、検量セットの試料もこの範囲をカバーしていなければなりません。
準備した試料をNIRS DS2500 Analyzerで測定します。次に、同一試料について一次分析法(カールフィッシャー滴定法および粘度測定法)で得られた測定値と、NIR測定結果をソフトウェア上で関連付けます。例えば、Metrohm Vision Air Complete ソフトウェアパッケージを使用して、水分値や粘度値を入力します(図2)。
その後、このスペクトルデータ(検量セット)を用いて予測モデルを構築します。
必要な試料数・スペクトル数は?
理想的な検量セットに必要なスペクトル数は、試料のばらつき(粒子径、化学成分の分布など)によって異なります。本例では、10種類のポリマー試料を使用しました。これは、アプリケーションの実現可能性を確認するための出発点として適切な数です。
しかし、すべての試料変動を網羅し、信頼性の高い定量分析を実現できる堅牢な検量セットを構築するためには、さらに多くの試料スペクトルが必要です。一般的には、約40~50個の試料スペクトルを用いることで、多くの場合に適切な予測モデルを構築できます。
また、この40~50個のスペクトルを含むデータセットは、予測モデルの検証にも使用されます。例えば、Metrohm Vision Air Completeソフトウェアパッケージでは、データセットを以下の2つのグループに分割できます。:
- 検量セット:75%
- 検証セット:25%
ステップ2:予測モデルの構築と検証
予測モデルの構築
予想される値の範囲全体にわたって検量セットの測定が完了したら、次は予測モデルを構築します。この工程は、NIR検量モデルの開発とも呼ばれます。ご安心ください。これらの手順はすべて開発済みであり、Metrohm Vision Air Completeソフトウェアパッケージに実装されています。
まず、各NIRスペクトルを目視で確認し、濃度変化に応じて変化する領域を特定します。多くの場合、一次微分や二次微分などの数学的処理を適用することで、スペクトルの違いがより明瞭になります(図3)。
特定したスペクトル領域について、ソフトウェアは一次分析法で得られた測定値との相関を求めます。その結果として、相関図と、それに対応する性能指標、すなわち標準校正誤差(SEC:Standard Error of Calibration、精度指標)および相関係数(R²)が得られます。図4 に、水分測定における相関図の例を示します。同様の手順を、その他のパラメータ(本例では固有粘度)についても実施します。
単変量解析と多変量解析
上記で説明したプロセスは、HPLCにおける一般的な作業手順とよく似ています。HPLCで検量線を作成する場合、通常はピーク高さまたはピーク強度(ピーク面積)を既知濃度の標準物質と関連付けます。この場合に使用する変数は1つ(ピーク高さまたはピーク面積)のみであるため、この手法は「単変量解析(univariate data analysis)」と呼ばれます。
一方、NIR分光法は「多変量解析(multivariate data analysis)」の技術です。NIR分光法では電磁波スペクトルの一定範囲(例えば水分測定では1900~2000 nm)を利用するため、複数の吸光度データを用いて相関関係を構築します。
予測モデルの検証
前述のとおり、まず検量セットを用いて予測モデルを構築します。その後、この予測モデルによる予測結果を検証セットを使用して検証します。これらのポリマー試料に対する結果を図4に示しています。NIRモデルの構築経験が浅く、まだ十分な自信がないユーザーは、高品質なサポートで知られるMetrohmの支援を利用することができます。当社は予測モデルの構築および検証をサポートします。
ステップ3:ルーチン分析
予測モデルの構築と検証が完了すると、近赤外分光法の真価が発揮されます。水分含有量や固有粘度が不明なポリマー試料も、ボタンを押すだけで分析できるようになります。NIRS DS2500 Analyzerは、これらのパラメータの測定結果を1分以内に表示します。
表示オプション
通常は、測定結果のみが表示されます。場合によっては、図5 に示すように、警告やエラーを示すために結果が黄色または赤色の枠で強調表示されます。スペクトル自体は表示されません。
もちろん、スペクトルを表示することも可能です。しかし、多くのユーザー(特にシフト勤務者)にとって、これらのスペクトルにはほとんど意味がなく、そこから有用な情報を読み取ることはできません。そのような場合には、数値結果と明確な合否判定のみが重要となります。
もう一つの表示方法として、トレンドチャートがあります。これにより、生産プロセスを先回りして調整することが可能になります。この表示でも、警告限界値およびアクション限界値が明示されます(図6)。
まとめ
NIR分光法をラボへ導入する際に最も労力を要するのは、ワークフローの初期段階、すなわち対象濃度範囲全体を網羅する試料の収集と測定です。予測モデルの構築および検証、さらにはルーチン分析への実装は、Metrohm Vision Air Completeソフトウェアパッケージを用いて行うことができ、短期間で完了できます。また、支援が必要な場合には、MetrohmのNIRSスペシャリストが予測モデルの構築を喜んでサポートします。
ここで注目すべき点として、NIR分光法には、予測モデルを新たに構築することなく直接導入できるケースもあります。その際には、Metrohmが提供する事前検量モデル(pre-calibrations)を使用します。これらは、実際の製品スペクトルに基づいて作成された、特定のアプリケーション(例えば PETの粘度測定)向けの堅牢なすぐに使用可能な測定手順です。
その特長や利点については、次回の記事でご紹介します。:
お役立ち情報
ラボ分析およびプロセス分析向けNIR分光計と、ラマンソリューションについて詳しくはこちらをご覧ください。