近赤外分光法(NIR)をラボでのリーチンワークに導入すると、迅速、正確、非破壊な分析をおこなうことができます。では実際にどのように導入すればよいでしょうか?
近赤外分光法のコラム・パート3では、実際のケースをもとに、具体的な事例を交えて近赤外分光法をラボに導入する方法を解説します。
まず以下の仮定から始めましょう:
- あなたの会社では、高分子材料を生産しており、ラボで水分測定(カールフィッシャー水分計)と固有粘度測定(粘度計)の代替手段として、短時間で測定が可能な近赤外分析計(NIR)の導入を検討しました。
- そして、新しく 近赤外分析計 DS2500 アナライザー が導入されました。
水分測定と固有粘度の測定はいずれも定量分析の例です。近赤外分光法はほとんどの場合、まずNIRキャリブレーション(または予測モデル)を作成する必要があります。
図1に測定の流れを示します。
ステップ1:キャリブレーションセットの作成
Part 1 のコラム (近赤外分析法って何?) では、近赤外分析法が間接的な手法であることを学びました。これは直接的な測定方法(例えば滴定)から得られたパラメーターに対応する一連のサンプルのNIRスペクトルで「トレーニング」が必要です。今回の水分と固有粘度の分析の例では、カールフィッシャー水分計と粘度計を使用して分析値を求める必要があります。
この「トレーニング」を堅牢にするためには、キャリブレーションセットサンプルが測定対象項目のパラメーターを完全な範囲でカバーする必要があります。これは、従来の分析手法(カールフィッシャー水分計、粘度計)により検量線モデルが濃度範囲全体に渡っている必要があります。したがって、対象サンプルの水分値が0.35%から1.5%の範囲になると予想される場合、トレーニング/キャリブレーションセットはこの範囲もカバーする必要があります。
近赤外分析計 DS2500アナライザーでサンプルを測定した後、同じサンプルを従来の分析手法(カールフィッシャー滴定および粘度測定)で測定し、その分析値とNIRスペクトルをリンクさせる必要があります。メトローム社Vision Airコンプリートソフトウェア(図2)を使用して水分値、粘度値を入力し、このデータセット(キャリブレーションセット)で検量線モデル計算を行います。
サンプルまたはスペクトルはいくつ必要ですか?
キャリブレーションセット内の理想的なスペクトル数は、サンプルの変動(粒子サイズ、化学的な分布など)に依存します。この例では、アプリケーションの実現可能性を確認するために10のポリマーサンプルを使用しましたが、すべてのサンプルの変動をカバーする堅牢な検量線モデルを構築するには、より多くのサンプルスペクトルが必要です。一般的には、約40〜50のサンプルスペクトルがほとんどの場合で適切な検量線モデル作成が可能です。
この40〜50スペクトルを含むデータセットは、検量線モデルを検証するためにも使用されます。これは、Metrohm Vision Air Completeソフトウェアパッケージを使用して行われます。このソフトウェアはデータセットを2つのサンプルグループに分割します:
- キャリブレーションセット:75%
- バリデーションセット:25%
ステップ2:検量線モデルの作成と検証
検量線の作成
日常分析時に想定されるサンプルの範囲全体でNIRスペクトルと従来分析値の取得ができましたので、検量線モデルの作成に進みます。検量線モデルの計算手順は全てメトローム社Vision Airコンプリートソフトウェアパッケージに実装されています。まず、NIRスペクトルを視覚的に確認し、濃度変化を伴う領域を調べます。スペクトルによってはスペクトル前処理(一次微分、二次微分、正規化など)をすることによりその違いがより明確になります(図3)。
NIRスペクトルの特徴が視覚的に確認されたら、次にソフトウェアを用いてNIRスペクトルと従来分析値の回帰計算を行います。その結果、Figure 4の水分の相関図に示されるように、検量線モデルの標準誤差(SEC、SECV)及び相関係数(R2)が表示されます。この同じ手順が他の測定項目(今回は固有粘度)に対しても行われます。
単回帰 vs 多変量回帰
このプロセスは一般的はHPLCなどの分析手法と作業手順が似ています。HPLCで検量線モデルを作成する場合は、一つのピーク高さもしくはピーク強度(面積)が既知の内部標準液の濃度と相関付けされます。ここでは一つの変数(ピーク高さ、ピーク面積)しか回帰計算に使用されませんので、「単回帰分析」として知られています。
一方、近赤外(NIR)分析の検量線モデルは「多変量回帰分析」です。近赤外分析では、NIRスペクトルの複数に渡るスペクトル範囲(例:水分1440~1460nm&1900~1940nm)を回帰計算に使用します、そのため複数波長のピーク値(吸光度)との回帰計算になります。
検量線モデルの検証
前述の通り、キャリブレーションセットを使用して検量線モデルが作成されますが、その検量線モデル検証はバリデーションセットを使用して行われます。これらのポリマーサンプルの結果は、上記のFigure 4に示されています。近赤外分析モデルの作成に不慣れで自信を持っていないユーザーは、メトロームよりサポートが受けられます。メトロームのサポートは高品質なサービスで知られており、検量線モデルの作成と検証に対するサポートを提供します。
ステップ3:ルーチン分析
検量線モデル作成及び検証された以降は、近赤外分析(NIR)の優位性が際立ちます。未知のポリマーサンプルの日常分析は、ボタンを押すだけで、水分値及び固有粘度値を同時測定できるようになりました。近赤外分析計DS2500アナライザーではこれらのパラメーターを1分未満で表示します。
ディスプレイオプション
通常、このステップでは測定スペクトル自体は表示されず、分析値結果のみが表示されます。またこの時に測定値結果の警告やエラーがある場合には黄色や赤色のボックスで強調表示されることがあります(Figure5)。
Vision Airソフトウェアは多彩の表示が可能です。通常、日常分析を行うユーザー(特に交代勤務の従業員など)にとって、測定したスペクトルは重要ではなく、測定された測定(分析)値データと明確な合格/不合格の表示が重要となります。
もう一つの表示オプションは、製造プロセスのトレンドをチャート化し、警告レベルとアクセションレベルを設定し、積極的にプロセス管理を行うことが可能です(Figure 6)。
まとめ
近赤外分析計をラボで運用するための一番の労力は最初のステップの目的対象の濃度範囲を完全にカバーしたサンプル収集とその測定になります。その後の検量線モデルの作成と検証、およびその後の日常分析への導入はメトローム社Vision Air コンプリートソフトウェアで短時間で完了することが可能です。またメトローム社の専門家がその検量線モデルの作成に関するサポートを提供することも可能です。
またメトロームでは特定のアプリケーション (例; PETの固有粘度測定) においてプリキャリブレーションを提供することが可能です。このプリキャリブレーションを使うと、事前のサンプル収集、測定、検量線モデル作成&検証を行う必要がありませんので、実際の堅牢・迅速な近赤外分析を即座に開始することが可能になります。
次の記事では、それらの特徴と利点について紹介しています: