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イオンクロマトグラフで測定の精度や信頼性には、分離カラムや装置の保護がとても重要です。そして高価な分離カラムを守るのがガードカラムです。今回はガードカラムの正しい使い方について解説します。

シーズン2 その睦(六)

天気予報だと今日も雨です。雷雨や雹はご免ですネ。いつも家に籠ってばかりなので,たまには井之頭にでも散歩に,と思いましたが…。しとしとと降る秋雨ならばいいんですが,滝のように降られちゃたまりませんからね…。散歩は明日にまわして,メトロームさんからの頼まれ原稿でも書くことにしましょうかね。そろそろ,メトロームの泰さんが取りに来そうなんでね。 

 

さて,『四方山話Season-II』は,「前処理」が眼目 (主題) です。前処理の目的は,第肆話 前処理の目的と水の管理に書いておきましたが,①共存物質・成分による妨害の低減,②分析対象成分の選択性や感度の向上,③分離カラム・分析機器の保護…でしたね。もう一度確認しておいてくださいね。 

 

上の①と②は測定の精度や信頼性に関わる問題で,前処理の主な目的であることは皆さんご承知のことと思いますが,③も重要な問題なんですよ。前処理の手抜きが原因で,分離カラムや装置を傷めてしまったら…。その試料の測定ができなくなるだけでなく,測定作業が止まって仕事が溜まるし,高価な分離カラムや装置も壊してしまう…。お金のことも含め,損失は途轍もなく大きいですね!

 

 何十年もイオンクロマトグラフィに関わっているんですが,測定試料がどの程度の分離カラムや装置に影響/被害を与えるかなんてのは判りません。実際,前処理をきちんとやったつもりでも,分離カラムの性能が低下してしまうなんてことがあります。正直,「やってみなけりゃ判らない!」が答えなんですが…。情けないですけど,これが実態なんですなぁ~。まぁ,私なりにそれなりの目安は持っていますし,幾つかの対策も持ってはいるんですが…。

 

私の手の内についてはそのうちに書くつもりですが,うまく説明できないものもあるんで,このコラムを読んで汲み取ってもらえるといいんですが… 今回は,高価なカラムを護ってくれるガードカラムの話をしましょう。

ということで,ちょっと基本に戻って「前処理」ってのを見直してみましょう。

まず,前処理の目的ですが…

 
当たり前のことを今更って感じですが,いざその時になるとつい忘れがちで,とんでもないことになってしまうことがあります。
測定対象となるイオンの濃度がppmレベルなんで安心していたら,共存成分の濃度が%オーダーだったので直接測定はできなかった,なんてことは多々あります。共存成分濃度が高く,測定対象成分と共存成分との濃度差が大きい場合には,共存成分の妨害によって信頼性のある結果を得ることできずに大きな誤差を生じてしまう恐れがあります。
共存成分の影響で,保持時間が大きく動いたり,ピークが変形したりするからです。また,共存成分があたかも測定対象成分のように振る舞い,測定対象成分が無いにも拘わらず検出されたりすることもあります。共存成分によるこれらの影響は,測定対象成分の濃度が低く,共存成分濃度が高いほど深刻になります。
このような場合には,前処理操作は必須となります。当然のことですが,ICに直接注入不可能な試料の場合には,必ず前処理という操作が必要となります。
前処理操作には種々の操作があります。下記に一般的な前処理の単位操作を示します。

 

 
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”ガードカラム (Guard Column)” は,その名の通り,分離カラムを保護するためのカラムです。以前は,分離カラムの “前 (pre-)” に接続するので “プレカラム (Precolumn)” とも呼ばれたこともありますが,現在は ”ガードカラム (Guard Column)” に統一されています。
ガードカラムはカラム充填剤に吸着する成分を吸着除去してくれますが,試料中の粒子や溶離液中で生成した沈殿を濾過するという働きもしてくれますので,ガードカラムは必ず使用するべきです。


当然のことですが,ガードカラムが汚れたら,カラム性能が低下して分離が悪くなります。多少の性能低下に目を瞑り,そのまま使い続けていると分離カラムにも汚染が回り,高価な分離カラムを駄目にしてしまいます。つまり,ガードカラムが完全に汚れる前に交換するべきなのですが…。時々,「ガードカラムの交換時期は?」という質問を受けることがありますが,試料によって大きく異なるので,「何とも言えません!」と答えるしかありません。これも情けないことなのですが…


皆さん,測定開始前にカラムの状態チェックをしていると思いますが,200検体あるいは2週間に1回位の割合で,次の方法でカラムチェックをすると良いでしょう。まず,ガードカラムを接続した状態で混合標準液を測定し,その後,ガードカラムを外して分離カラムだけで同様に測定します。それぞれのピーク形状と理論段数を比較して判断します。理論段数の差が5%程度であれば問題ないと判断できます。当然,カラム使用開始時よりも性能が大きく低下しておらず,ピーク形状が正常であるということが前提ですが…
試料によっては,100検体も測定していないのに,ピーク割れやピーク変形が生じてしまうことがあります。下の図は,ピーク割れを起こしてしまったカラムのクロマトグラムです。


一番上のa) のクロマトグラムではすべてのピークに “割れ” が生じています。このピーク割れは後ろの (保持の長い) 成分ほど酷く見えます。こんなクロマトグラムを見てしまうと,カラムを駄目にしてしまったかと大変ショックですね。こんな時は慌てることなく,ガードカラムを外して,分離カラムだけで標準試料を測定してみてください。異常に気が付き,直ぐに対応できれば,b) のクロマトグラムのように分離カラムは生きている可能性があります。分離カラムが異常ない,あるいは影響がほとんどない場合には,ガードカラムさえ交換すれば,それまで通り,測定を継続することができます。ただ,こんなトラブルが発生した要因は測定試料にあるはずなので,前処理方法は検討し直さなければなりませんが…

図1 ピーク割れを生じたカラムとガードカラム交換後のクロマトグラム

 

このような問題の発生を考えに入れておくと,夾雑成分の多い試料を測定している方々は,ガードカラムの控えを持っておくべきですね。ただ,交換したガードカラムは直ぐ捨てないでくださいね。手の空いたときに,逆向き (出口側) から溶離液あるいは有機溶媒を添加 (取扱説明書に従ってくださいね!) した溶離液を流してみると再生できる可能性もあります。一度試してみてください。
一方,長期間まったく問題なく測定することができていたのに,ある時から少しずつ性能が落ちてきた…なんてこともあります。これは,試料あるいは溶離液中の微量の有機物 (時には金属水酸化物) の吸着によって分離平衡が崩れた性なのですが,ガードカラム入り口側の充填剤に一定量以上吸着しないと変化が出てこないみたいです。そのため,ガードカラムの交換時期の判断は困難です。放っておくと汚染が分離カラムまで回っちゃいますので,定期的なカラムチェックを行ってください。
下図は長期間使用して性能低下を引き起こしたガードカラムの充填剤を抜き出した時の写真です。試料入り口側の充填剤が数mm褐色に着色しています。酸/アルカリ,有機溶媒等,いろいろと洗浄を試してみましたが,この着色を落とすことはできませんでした。従って,長期間使用して性能低下を起こしたガードカラムの再生は困難です。何かもったいないですけど,廃棄です。

図2 長期間使用して性能低下したガードカラム充填剤の写真
 
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ガードカラムには分離カラムと同じ充填剤が充填されています。分離に使われる充填剤の量が増えることになりますので,一見,カラム性能が向上するように思えるのですが…。残念ながら,現実には,同じか,若干低下してしまいます。この原因は,カラムエンド (フィッティング) 内のフィルタや配管接続部にある空間です。このような空間は「デッドボリューム (死空間)」と呼ばれ,この空間でガードカラムを通過した試料成分の拡散が生じてしまいカラム性能低下の要因となります。

デッドボリューム内では,溶液が滞るあるいは不規則な流れが生じています。注入された (あるいは分離された) 成分がデッドボリュームに入り込むと,試料成分の拡散/滞留によってピークが拡がってしまいます。一般に,デッドボリュームでは溶液の入れ替わりが悪いため,テーリング状のピーク形状となり,極端な場合にはピークの “割れ” が起きてしまいます。

カラムエンド内の空間は対応できませんが,試料成分が通過するカラムや検出器等の配管接続部にデッドボリュームが生じないように注意して接続しなければなりません。配管を接続する場合には,下写真左のa) のように押しネジの先端から少し配管を引き出して接続するようにしてください。下写真左のb) の状態ですと,大きなデッドボリュームが生じてしまいますので,接続する前に必ず配管の状態を確認してください。

下図右は,ガードカラムと分離カラムの接続部出口に,態 (わざ) とデッドボリュームを作って測定したクロマトグラムを下にお見せします。デッドボリュームがあると理論段数は低下し,ピークの対称性が悪化します。この影響は,早く溶出する成分ほど顕著です。理論段数の低下は硫酸イオンでは7.5%ですが,亜硝酸イオンでは21%も低下しています (表1)。

図3 配管接続の良否とデッドボリュームの有無におけるクロマトグラム

表1 デッドボリュームの有無におけるカラム性能比較

表1 デッドボリュームの有無におけるカラム性能比較
 
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メトローム社のMetrosep Series カラムには,カラム形状の異なる2種類のガードカラムがあります。”Guard” と “S-Guard” との名称がついています。それぞれのカラム形状と分離カラムとの接続例を下記左に示します。“S-Guard” は一般的なガードカラムと同様に,接続配管を使って分離カラムと接続します (下図右下)。一方の “Guard” はカラムエンド (フィッティング) 出口側に接続部が付いており,分離カラムに直接接続することができます (下図右上)。この “Guard” を使えば,接続配管と接続押しネジ2個を省略することができますので,ガードカラム-分離カラム間でのデッドボリュームの発生を抑えることができます。
 
 
図4 Metrosep Series のガードカラムと分離カラムとの接続例
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最後は,チョイとメトロームさんの宣伝になってしまいましたが,ガードカラムの必要性と使用時の注意点はお判りいただけましたかな?『四方山話Season-II』は,「前処理」が眼目 (主題) なんですが,分離や検出等,測定の精度や信頼性の向上に関わる話を織り交ぜて書いていきたいと思っています。次回は,疎水性の高い成分を含む試料の測定について書いてみたいと思っているんですが…
今後とも宜しくお願いしますョ!!

 

関連コラム

ご隠居達のIC四方山話 シーズンII その肆(4)「前処理の目的と水の管理」

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

 

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