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イオンクロマトグラフで紫外吸収検出器 (UVD) を接続する際の配管方法から検出器の特徴について、ご隠居さんがお話しします。

シーズン2 その壱(一)

「ごめんくださぁ~い!」


「はいはい。どちらさんですかな?おや,お久しぶり!Metrohmの泰さんじゃないですかぁ~!」


「大変ご無沙汰しています。ずいぶん探しましたよ!!」


「はっはっはぁ~。まぁ,おあがりョ!」


「お邪魔します。ご隠居が突然いなくなったてんで,あちこちいろんな人に聞いて回ったんですが…」


「そりゃ,悪かったね。駒込富士前も悪かぁないんだが,侘住いってのは町じゃだめなんですよ。」


「侘住いですかぁ。けど,何でまた武蔵野なんですか?」


「緑は多いし,静かだし,物価もそこそこ安いし~。電車に乗ってしまえば新宿だって20分だよ!」


「そうそう,吉祥寺まで出りゃなんでも揃いそうですよね。侘住いのわりにゃ結構便利なんですね。」


「正直,田舎暮らしには向いてないんだョ!そういや,Metrohmさんだって,人形町に移ったんだろ?人形町なら,ここからでも1時間もありゃ着くよ!」


「人形町じゃなくて,水天宮前です。」


「水天宮様か。大川 (隅田川) の脇かい。蛎殻町,それとも箱崎かな?ふ~ん,箱崎ですかぁ。人形町もすぐそこだね。夜が楽しそうだね。今度お伺いするかね?」


「是非。お待ちしてますョ!こっちも時々お伺いしますから,また前のように相談に乗って下さいな。」


「こんな年寄りでもまだ役に立ちますかね?今時ぁ,ネットでちょいと調べりゃ済むんじゃないかい?そうそう,“ウキペデア”とかなんとか言ったっけ?あれで済むんじゃないかい?」


「“ウィキペディア (Wikipedia)” ですよ。確かに,早いちゃ早いんですが,ICのノウハウなんてのは一切書いてありませんよ。ご隠居さんの話のほうがはるかに役に立ちますんで!」


「そんなもんかなぁ~。まぁ。いいや。そんじゃ,隠居ペディアってとこで…あっ,こりゃ立川晴の輔師匠がやってるから駄目だね。”爺ペディア (Jiji-pedia)” とでもしましょうかね?」


「いいですねぇ~。じゃ,早速ご意見拝借なんですがぁ…。最近の依頼分析は結構厄介なものばかりで,一筋縄ではいかないんですよ!夾雑物は多いし,測る奴の濃度は低いし…」


「ふ~ん。単純な水質分析なんてのは減ってきたんですね。けど,Metrohmさんにとっては好都合じゃないですかぁ!インライン前処理装置を広めるにはいいネタですよ!」


「そりゃそうなんですがぁ…。箱だけ売って,“はいどうぞ” ってな訳にはいきませんよ。そんなんで済むんなら,わざわざご隠居さんとこにゃ来ませんよ。」


「こりゃ失敬。んじゃ,四方山話シーズンII ”爺ペディア (Jiji-pedia)” は,厄介な試料てのを測る時の分離検出や前処理を中心に話を進めるってことにしましょうか!」

 
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厄介な試料ってのはいろいろありますね。夾雑成分が多数有ったり,高濃度だったり,強酸性や強アルカリ性だったり…。他にも,固体や有機溶媒・油だったり…。そこに来て,測りたい成分が微量だったりすると,嫌になっちゃいますね。かといって,「できません」という訳にはいきませんし…
四方山話シーズン2では,こんな試料を測定する場合のヒントをお話ししていくつもりですが,まずは基本の「き」から話しましょう。第壱話は装置絡みの話からです。 

装置は一般的なイオンクロマトグラフで良いのですが,可能であれば紫外吸収検出器 (UVD) を付けたものを使うことをお勧めします。UVDを付けておくと,電気伝導度検出器 (CD) との応答比を調べることで測定の精度や信頼性を担保することができます。この件に関しては,シーズン1の第拾話※に書いてきましたので,もう一度読んでみてくださいね。 

UVDは,亜硝酸イオンや硝酸イオンのように紫外部に吸収を持つイオンの測定に有効なのは周知のことと思いますけど,測定対象イオンが紫外部に吸収を持たなくても複雑な試料の測定を行う場合には有効なツールとなります。
例えば,廃水のような試料の場合,多種多彩な夾雑成分が含まれています。これらの試料の中には種々の下水無機イオンも含まれていますが,夾雑成分の多くは有機化合物です。ほとんどの有機化合物は紫外部に吸収を持っているので,測定対象イオンに妨害を与えていないかを知ることができます。妨害成分がCDに応答しなければCDを基に測定対象イオンを定量することができますが,測定対象イオンの濃度が低い場合には定量性が損なわれてしまうことがあります。CDに応答しない成分であっても,高濃度の場合にはCDのベースライン変動 (一般に負ピーク) が生じますので,ppbレベルの定量再現性が悪化してしまうことが多々あります。また,カラムへの保持が強い疎水性有機化合物の場合には,次の測定中に溶出して妨害となる場合もあります。このようなトラブルを防ぐためにも,UVDを付けて妨害成分の挙動を確認する必要があります。

使用するUVDは単波長型のものでもよいのですが,理想的には多波長検出・スペクトル測定が可能なダイオードアレー型検出器 (Metrohm 944 Professional UV/Vis Detector) が有効です。複数波長での応答比やスペクトルから,妨害成分がどのような化合物であるのかを推定することが可能となります。 

分離カラムに関しては,いつもお使いのものを利用するということで良いのですが,初めての試料や所謂,未知試料の測定の場合にはカラムを壊さないか不安になりますね。重金属や疎水性有機化合物を多く含む試料の場合には,これらがカラム内に吸着してしまい性能が一気に低下してしまう恐れがあります。当然,何らかの前処理をしてから測定を行うのでしょうが,試料情報が少ない場合には適切な前処理を行えない場合もあります。カラム破損のリスク解消のため,性能が低下したカラムを廃棄せずに残しておくことをお勧めします。理論段数の低下や保持時間の短縮が有っても構いません。ピーク形状が正常であれば,「お試し測定」には十分です。このようなカラムを用いて測定してみれば,カラム破損を心配せずに共存成分による妨害度合いや前処理の適正度の評価を行えます。
その他の測定条件は普段通りで問題ありません。装置絡みのポイントは,UVDの併用と,お試し測定用カラムの使用です。「お勧めします」と書きましたが,複雑な夾雑成分を含む試料や未知試料を測定する場合には,UVDを併用すべきと考えています。一般に,UVDはスタンドアローン型ですので,必要に応じて接続すればよいと思います。
 
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イオンクロマトグラフへのUVDの接続に関して肝心なことを忘れていました。
さて,ここでQuestion!下の図でUVDはどこに接続すると良いでしょうか?

図1 イオンクロマトグラフへのUVDの接続位置

 

正解は,「目的と状況により接続位置は変化する…」です。
イオンクロマトグラフへの接続の容易さを考えるなら “C” に接続するのが最も簡便です。イオンクロマトグラフからの廃液配管をUVDの入り口に接続すればよいのです。この場合注意すべき問題が2つあります。一つは,サプレッサ/CD検出セルを通過するため,ピークが広がって理論段数が低下します。もう一つは,UVDのメーカーや機種により違いがありますが,気泡の発生を防ぐため背圧がかけられている場合があります。このような機種を使う場合には,サプレッサに負荷がかかって破損させてしまうことがあります。特に,炭酸サプレッサ(MCS)を使用している場合には,炭酸除去チューブを破裂させてしまうことがありますので,UVDの背圧がどの程度かを事前に確認しておく必要があります。となると,“A” に接続するということになりますが…。ピークの広がりはなくなるのですが,溶離液の影響が問題となります。ICにおけるUVDの利点は,亜硝酸イオンや硝酸イオン,さらには有機酸イオンを検出できるという点にあります。この場合,230nm以下の波長で検出しますが,この波長では炭酸イオンも僅かに吸収を示しますので,バックグランドが高くなり,ノイズが大きくなるという問題が生じます。炭酸イオンは,サプレッサを通過すると弱解離性の炭酸に変換されます。イオン性化合物の吸光係数は解離状態と非解離状態で変化し,解離状態 (イオン化している状態) のほうが高い吸光係数を示します。つまり,サプレッサを通過した後にUVDを接続すれば,バックグランドノイズが小さくなり,ピークも高くなるという利点があります。
サプレッサ有無の比較データを表1と図2に示します。

どうですか?数値的には大きな差ではないように見えますが,S/N比は2倍以上も異なり,サプレッサを通過した後のほうが良好な検出下限を示します。これらのことを考えると,背圧の問題が無ければ,“B” あるいは “C” に接続するのが良いということになります。ちなみに,“B” と “C” に差ですが,CDの検出セルの容量は小さいためピークの広がりは無視できる範囲です。むしろ,温度の問題のほうが大きくなります。 “B” に接続した場合には,一般的なUVDはスタンドアローン型ですので,接続配管類が一旦イオンクロマトグラフから外に出てしまい,外温変動を拾うことにより温度依存性の高いCDのベースラインが変動してしまうことがありますので,結果的に “C” に接続するのが好ましいと云えます。
ここでは,陰イオン分析の場合について説明しましたが,イオン排除モードで有機酸分析を行う場合も基本的に同様です。酸性溶離液中では有機酸はほとんど非解離状態ですが,サプレッサを付けるとほぼ中性になりますので,イオン化が促進されて検出下限が改善されます。ちなみに,250nm以上の長波長側で検出を行う場合には溶離液の炭酸イオンの影響はなくなりますので,検出感度の問題さえなければですが,“A” に接続しても問題はありません。

表1 サプレッサの有無によるUVDの検出特性
表2 サプレッサの有無によるUVDの検出特性
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久々なので,話が長くなってしまいましたな。紫外吸収検出器一つでも,ちょっとした気遣いが必要ということですよ!次回は,「未知試料」を測定する場合の基本的な考え方についてでもお話ししましょうかね。では,また…

 

※ご隠居達の四方山話 その拾(十)「電気伝導度検出器とUV検出器の測定値が合わない!!」

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

 

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