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今回は,イオンクロマトグラフのシステムの圧力上昇についてお話ししましょう。圧力上昇が起きたという話はよく聞く話で,我々も数多く経験しています。原因は意外と明確で,その対策・対処策も簡単なんですが。。

シーズン4 その漆(七)

 

 

こんにちはぁ~。皆さんお元気ですか?当方は相変わらずですな。けど,パソコンと睨めっこの毎日で,若干腰が重いんですよ。椅子に座ってばかりで,運動不足ですかね?たまに,ご近所の寺社なんかを散歩しているんですけどね。やっぱり,歳ってことですかね・・・

さて,本シーズンの四方山話ももう第漆話です。今回は,システムの圧力上昇についてお話ししましょう。圧力上昇が起きたという話はよく聞く話で,我々も数多く経験しています。原因は意外と明確で,その対策・対処策も簡単なんですが・・・

 
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前回の第陸話でも少しお話いたしましたが,Metrohmのイオンクロマトグラフの標準バックプレッシャーを表7-1にもう一度お見せします。この値は,分離カラムを外して,配管をユニオンで接続した状態で,溶離液を流量1.0 mL/minで送液した時の圧力です。この値以下であれば,システム圧力は正常ということです。システム圧力のチェックは,圧力上昇が発生した時だけでなく定期的に行って,表7-1の値と比べるようにしてください。

 
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折角の機会ですので,システム圧力/バックプレッシャーの測定方法をもうチョット丁寧に説明しておきましょう。

まず,分離カラムを取り外し,サプレッサと検出器との接続配管を外してください。この状態で,溶離液を流量1.0 mL/minで送液して圧力を読み取ってください。システムに詰まり等が無ければ,圧力はほとんど上がらないと思います。もし,表7-1のノンサプレッションシステムのバックプレッシャーの値よりも高い場合には,インジェクタあるいはサンプルループに詰まりがあるかもしれません。早急に,インジェクタあるいはサンプルループの洗浄・交換が必要です。問題がなければ,インジェクタ出口配管と検出器入口配管とを下記の図7-1aのようにユニオンで接続し,溶離液の送液 (流量1.0 mL/min) を開始して圧力を読み取ってください。この状態が,表7-1のノンサプレッションシステムに相当します。表7-1に示した値以下であれば問題ありませんが,表7-1の値以上の場合には検出器周辺の配管の詰まりを確認してください。

サプレストシステムのバックプレッシャーは,図7-1bのようにサプレッサも接続して,同様の条件で圧力を読み取ります。表7-1に示した,ケミカルサプレッションのバックプレッシャーの値以下であれば問題ありません。表7-1に示した値以上であればサプレッサのどこかに原因があるということになりますので,各接続配管の詰まりを確認してください。シーケンシャルサプレッションを行っている場合でも,同様の方法でバックプレッシャーを知ることができます。図7-2に,ケミカルサプレッションとシーケンシャルサプレッションにおける,サプレッサと検出器との間の配管の接続を示しておきます。

 
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さて,本題の圧力上昇の原因と対策の話に入りましょう。圧力上昇が生じる個所は,主に配管,インラインフィルタ,カラムの3つです。これ以外で発生しないわけではありませんが,ほとんどはこの3か所といって良いと思います。

まず,配管で発生する圧力上昇ですが,大体原因は2つです。

一つ目は,締めすぎによる内径の潰れ・閉塞です。イオンクロマトグラフの配管は樹脂製です。主にポリエーテルエーテルケトン (PEEK) が使用されています。PEEKは,耐薬品性 (濃硫酸を除く耐酸・耐アルカリ性,耐溶媒性) をはじめ耐熱性,引張特性,耐衝撃性に優れる高性能エンジニアプラスチックです。強度的にも優れており,手締めで配管を接続している場合には閉塞するようなことはありません。しかし,液漏れが止まらないといった時に,スパナ等を用いて力一杯締め込むと閉塞してしまいます。そもそも,手締めで液漏れが止まらないという場合は,押しねじ先端部あるいはユニオン等の接続部位が変形していることが原因ですので,力ずくで増し締めするのではなくそれらを交換するべきです。

イオンクロマトグラフにはPEEK以外の配管も一部使用されています。第陸話にも話しましたが,サプレッサ接続配管はPTFE製 (≈ Teflon®) です。PTFEは軟質のため強く締めてしまうと内径が潰れてしまいますので,送液しながら接続ネジゆっくり回し込み,液漏れがないかどうかを確認しながら少しずつ締め込んでいってください。

もう一つは,配管の目詰まりです。サンプルループやカラム接続配管の入り口側で主に発生します。目詰まりが発生したサンプルループや配管は,逆向きに接続して,高流量で送液すれば目詰まりを解消できることがあります。しかし,一回目詰まりが発生したものを再度使用していると,再度目詰まりが発生してしまう恐れがありますので,原則新品のサンプルループや配管に交換してください。

イオンクロマトグラフの高圧ポンプ以降の配管は,内径0.25 mmのPEEK配管になっています。但し,マイクロボアカラム用システムでは,インジェクタ以降が内径0.18 mmのPEEK配管になっています。髪の毛の太さは0.05 ~ 0.15 mmとされていますので,約0.2 mmの粒子は十分肉眼で確認できます。高圧ポンプは10 µmの粒子が含まれる溶液を送液できるとされていますが,さすがに約0.2 mmの粒子が送液されてしまうことはありません。溶離液の中にこんな粒子が入っているとチェックバルブが正確に作動しなくなり,送液不良が発生してしまいます。試料も0.45 µmのメンブランフィルタでろ過しているはずですので,約0.2 mmという大きい粒子が入り込んで詰まりが発生するわけではありません。

配管での目詰まりが発生する原因は,大きな粒子ではないと思います。小さな粒子 (10 µm以下) が,配管の閉塞気味になっているところや,配管の先端部のバリ等に引っかかり,さらにそこに次々微粒子が蓄積して目詰まり状態になるもの考えられます。継ぎ手部分やインジェクタのローター部分での詰まりも同じだと思います。昔は,試薬中にろ紙の繊維屑が入っていて,目詰まりの原因になりました。繊維屑の量は非常に少ないのですが,いつの間にか蓄積して詰まりが発生してしまいます。そのため,溶離液は調製後に0.45 µmのメンブランフィルタでろ過してから使用していました。けど,最近の試薬はきれいです。0.45 µmのメンブランフィルタでろ過しても繊維屑みたいなものは見つかりません。

しかし,本当に大丈夫でしょうかね?環境からも入り込んでしまうかもしれませんし・・・

このような心配を解消するためには,溶離液ラインのチューブの吸引側にアスピレーションフィルタ (図7-4左) を取り付ける,高圧ポンプとインジェクタの間にインラインフィルタ (図7-4右) を取り付けると良いと思います。これらは,イオンクロマトグラフが納入された時に標準でついています。粒子による圧力上昇を引き起こさないために,インラインフィルタは必ず使用するようにしてください。アスピレーションフィルタ及びインラインフィルタの孔径は,それぞれ20 µm及び2 µmですので,配管の目詰まりだけでなく,粒子分による高圧ポンプの送液不良 (シーズンVI 第肆話) やカラムフィルタの目詰まりの発生も防げます。

フィルタは,フィルタの孔径よりも大きな粒子を捕集し,フィルタの孔径よりも小さな粒子は通過します。これって本当ですかね?実際は,フィルタ孔径よりも小粒子もある程度捕集することができます。フィルタの繊維等の構造体に粒子が付着すると,その粒子をコアとしてさらに粒子が付着して粒子層が形成されます。この粒子層の空隙径は非常に小さいため微細粒子が捕集されます。つまり,フィルタにはその孔径よりも小さい粒子も捕集されます。しかし,フィルタ孔径よりも小粒子を完全に捕集できるというのではなく,一部は通り抜けてしまいます。

アスピレーションフィルタやインラインフィルタでも,それらの孔径よりも小さな粒子が捕集されます。しかし,フィルタに小粒子が捕集されるということは,長期の使用でフィルタそのものが目詰まりしてしまうということになります。溶離液のアスピレーションフィルタが目詰まりを起こすと,ベースラインノイズの増大や気泡の発生による圧力降下/変動が生じてしまいますので,最大3か月を目安に交換してください。インラインフィルタはアスピレーションフィルタよりも小さな孔径を持っていますので,アスピレーションフィルタよりも早く目詰まりが発生してしまうことがあります。図7-4右上に,長期使用したインラインフィルタの一例を示します。元は白だったフィルタが,褐色に変色しています。このような状態になってしまうと,圧力上昇の原因となります。インラインフィルタは最大3か月を目安に交換となっていますが,時々フィルタの色を確認して早めに交換するようにしてください。

 
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圧力上昇の主な原因のもう一つは分離カラムのカラムフィルタの目詰まりです。

上記のように,アスピレーションフィルタとインラインフィルタを接続し,定期的にフィルタ交換をしていれば,溶離液による分離カラムの圧力上昇はほとんど発生することはありません。分離カラムの圧力上昇の主な原因は測定試料中の微粒子です。試料注入量は僅かですが,測定試料中の微粒子がカラムフィルタや充填剤の隙間に詰まって圧力上昇してしまいます。測定試料は,0.22あるいは0.45 µmのメンブランフィルタでろ過しているので問題はないと思われているかもしれませんが,微細な粒子であってもカラムフィルタや充填剤隙間の詰まりの原因になってしまいます。

もう一つ,シーズンIIの第伍話にも書きましたが,測定試料中の成分が溶離液と接触して沈殿を形成すると,カラムフィルタや充填剤の隙間に詰まって圧力上昇が発生します。多くはpH変化が原因で沈殿を形成しますので,事前に試料溶液を溶離液で希釈して放置 (30 ~ 60 min) し,遠心分離後上澄を0.22 µmメンブランフィルタでろ過して測定試料にするとトラブルを防げます。また,重金属イオンはアルカリ性溶液中で水酸化物やオキシ水酸化物を形成します。これらは,カラム充填剤に吸着・蓄積して,カラム性能を低下させると共に,充填剤の隙間を閉塞させて圧力上昇を引き起こすきっかけにもなります。従って,重金属イオンを多く含む試料の場合には前処理によって事前に除去しておく必要があります (シーズンIIの第玖話参照)。

分離カラムの圧力上昇を知るには,新品の分離カラムを初めて付けた時のシステム圧力を記録しておかねばなりません。測定条件は,分離カラムの標準条件,あるいはいつも使用する条件で良いでしょう。使用しているうちに使用開始時の圧力よりも10%位上昇してくるかと思いますが,この程度では継続して使用しても問題はありません。20%近く上昇した場合には,カラム洗浄により目詰まりを解消してください。方法は図7-5に示す通りで,流量を落として逆洗します。カラムには “Flow マーク” がついていますので,Flowの方向を確認してください。溶離液流量を0.3~0.5 mL/minにして “Flow マーク” とは逆向きに送液を行います。その際,廃液はビーカー等に受け,絶対にサプレッサや検出器には流さないようにして下さい。カラム圧力が下がり,カラム性能に異常が無ければ継続して使用可能です。

無色透明の試料溶液に見えたとしても,孔径0.2~0.45 µmのメンブランフィルタで必ずろ過した後に測定してください。しかし,上述したように,ろ過したとしても圧力上昇が発生する恐れがあります。この対策として,図7-6に示すガードカラムや吸着フィルタMetrosep RP 2 Guardを取り付けるようにしてください。

ガードカラムには分離カラムと同じ充填剤が充填されていますので,粒子分と共にカラム充填剤に吸着・蓄積する成分を取り除いてくれます。図7-6左下に汚染したカラム充填剤の写真を載せましたが,汚れは先端の数mmですので,ガードカラムを接続することにより分離カラムを保護することができます。ガードカラム圧力上昇が発生した場合には,図7-5と同様の方法で洗浄してください。ガードカラムは,定期的,あるいは一定の測定試料件数毎に洗浄するようにしておくと長期間使用できます。

吸着フィルタMetrosep RP 2 Guardは,疎水性有機物を吸着可能なフィルタを組み込んだもので,有機物と共に,粒子分や金属酸化物等も吸着除去できます。Metrosep RP 2 Guardは,インジェクタとカラムとの間に設置します。図7-6右下に色素成分を含む試料を測定した時の吸着フィルタの写真を載せました。吸着性成分はMetrosep RP 2 Guardの吸着フィルタで捕捉されますので,ガードカラムや分離カラムの汚染物質を低減できます。Metrosep RP 2 Guardのフィルタは容易に交換可能ですので,定期的に交換するようにしてください。

 
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今回は,圧力上昇の話でした。お話しした通り,圧力上昇を早期に発見し,早期に対処に対応すれば大きなトラブルを防ぐことができます。また,圧力上昇が発生しないように,アスピレーションフィルタとインラインフィルタの接続,ガードカラムと吸着フィルタMetrosep RP 2 Guardの使用,試料ろ過の励行,前処理による沈殿性成分の除去等,適切な対策をとるようにしてください。

それでは,また・・・

 

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