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分析化学の考え方について、ご隠居さんがゆる~くお話ししています。
「ご隠居達のIC四方山話(よもやまばなし)」シリーズ完結編!

シーズン1 その参捨貮(三十二)

一気に寒くなってきました。今年は「木枯らし1号」が吹くのが遅かったでんすね。去年より3週間以上も遅いとのことです。ことしの冬は大したことないのかと思いきや,「木枯らし1号」が遅いときは厳しい冬になるそうです。年寄りには厳しい季節になりますな。寒い日には何処にも行きたくないね。朝は早くから目が覚めちゃいますけど,布団から出るのも億劫です。コラムの原稿書きや若い衆の相談なんか打遣っといて,炬燵に籠もって,一杯引っ掛けながら,一日中ゴロゴロ,ゴロゴロ…,なんてしてたいけどね。そんなこと続けてると人間駄目になっちまうんでしょうけど,やりたいねぇ。たまには,散歩ってことにして,いい店見つけて一杯なんていいですなぁ〜。「歳なんだから」っていつもいわれちまいますが,酒だけは止められませんね…

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江戸時代。魚河岸といえば日本橋ですが,芝の浜にも小魚が専門ですが河岸がありました。

棒手振の魚屋の勝五郎。いい魚を持ってくると評判だが,大の酒好き。仕入れの帰りにチョイと一杯やったのが,いけなかった。次の日は二杯,その次の日は三杯。終いには,仕入れの銭まで呑んじまって,,,そのあげく,二十日近くも休んでしまった。

「ねぇ〜,お前さん,起きておくれよ!明日から出るっていうから一杯飲ませたのに,,,商いに行ってくれなきゃ,釜の蓋が開かないんだよ!」 と,かみさんが起こしたが,,,

「行くよ。行きゃいいんだろ!けど,半月も休んで飯台の箍が緩んでねえか?」

「昨日今日魚屋の女房になったんじゃないんだよ!一っ垂らしも漏れないよ。」

「包丁は?」,「活きのいい秋刀魚のようにピカピカ光っている!」

「ワラジは?」,「出ています!仕入れの銭も飯台の上に載ってます!」

「やけに手回しがいいな。」勝五郎。仕方なく,仕入れに出かけて行った。

浜に着いたが,河岸はどの店も閉まってる。かみさんが,一刻早く起こしてしまった。

家に帰って一発殴ってやろうかと思ったが,また戻って来なきゃならないんで,増上寺の鐘を聞きながら浜で煙管を吹かしてると…波間に何か動いている。煙管の先で引っ掛けてみると,ずしりと重い革の財布。

「おっかぁ。開けてくれぇ!ちょいと後ろを見てくれ!誰も付いて来ないかぁ?水をくれ!」

「何,慌ててんだい?」

「浜で財布を拾った。大枚入ってる。数えてみろ!」

かみさんは震えてばかりで数えられないので,勝五郎が数えてみると,八十二両。

「早起きは三文の徳って云うが,一刻早く起きて八十二両。明日から仕事に行かなくて済むし,朝から酒飲んでられらぁ。金公や虎公には借りがあるから存分に飲ませてあげよう…」

昼に起こしてくれと云って,昨日の飲み残しの酒を呑んで寝てしまった。

「ねぇ〜,起きとくれよ!商いに行っておくれよ!行かなきゃ,釜の蓋が開かないよ!」

「何ぃ〜?釜の蓋が開かない?昨日,浜で拾った八十二両で開けとけよ!」

「八十二両って???。浜って。お前さん,浜なんか行ってないじゃないの!」

「何ぃ〜!お前が一刻早く起こしやがって,浜に行ったら,河岸が閉まってて,そんでもって,海ん中に八十二両入った革の財布があって,拾って帰って,お前と二人で数えて,,,」

「悲しいね。いくらお金が欲しからって,そんな夢見たのかい?」,「夢ぇ〜!」

「私の格好見てみなさいな。この暮ぇきて,浴衣二枚重ねて着てんだよ。お金があるように見えるかい?お前さんは芝の浜なんかにゃ行ってないんだ。起こしたら怒鳴られたんで放っといたら,昼頃起きて風呂行って,帰り際に友達大勢連れてきて,酒買ってこい,天ぷら誂えろって,,,友達の手前もあるから,周りで工面して買ってきたんだよ。一人ではしゃいで,散々飲んで寝ちまったんじゃないか!芝の浜なんかにゃ行ってないんだよ!」

「… 一寸待て,,,増上寺の鐘は何処で聞いたんだ。」

「増上寺の鐘ならここでも聞こえるよ。今鳴っているのがそうだよ。」

「う〜,夢かぁ…子供の頃から,やにハッキリした夢見ることがあった。八十二両拾ったのが夢で,飲み食いしたのは本当か。割に合わない夢見たなぁ〜。おっかぁ〜,死のうか?」

「何馬鹿なこと云ってんだい!死ぬ気になって商いすりゃ,この位直ぐに何とかなるよ!」

「何とかなるか…よし分かった。明日から商いに行く。酒が悪いんだな。酒は止めた。今度は神様なんかじゃなくお前と約束する。一っ垂らしも呑まない。」

翌日から人が変り,精出して働いた。腕は元々いいので,馴染みも直ぐに戻ってきた。

三年目の暮れ。風呂から戻ってみると,正月の手配は済んで,畳も取り替えてあった。

「お前さん,話したいことがあるんだ。ただ,話し終わるまで怒ったり,手荒なことはしないでおくれ。約束してくれるかい?じゃぁ,お前さん。これ…覚えは無いかい?」

「汚ねぇ財布だなぁ〜。臍繰りかい?まぁ,いいや。けど,随分やりやがったな…」

「その財布と八十二両に覚えは無いかい?」

「う〜ん…ある!芝の浜で八十二両入った財布を拾った『夢』を見た。」

「あれは夢じゃないんだよ。あん時の財布だよ!」

「なにぃ〜。あん時の金ぇ〜。お前,夢って言っただろ!」

「最後まで怒らない約束だよ。全部聞いてから殴ると蹴るといい。本当は夢じゃないんだ。拾ったんだよ。私だって欲しかったけど,お前さんがお縄になるのが怖くて,,,お前さんが寝てしまった後,大家さんに相談したら,『お上に届けなきゃならない。夢だってことで騙してしまえ』って。いい具合にお前さんが夢だと信じてくれて,お酒も断って商いに励んでくれて,店も持つことができた。いつも,騙してて申し訳ないと思っていた。お金はとぉに下げ渡されてたんだけど,元に戻るんじゃないか怖くてね。ご免なさい。女房に騙されて悔しいでしょ?お前さん,好きにして下さい。」

「よしねぇ!手を上げてくれ。あん時使ってりゃ,お仕置きされて首が繋がっちゃいねぇ。運良く寄せ場送りになっても,戻ってくりゃ菰被りだ。礼は,俺のほうが云わなきゃならない。女房大明神様。」

「お前さん。許してくれるんだね。機嫌直しにお酒でもどう?用意してあるんだよ。」

「どおりでさっきからいい匂いがしてると思った。畳の匂いにしちゃ変だと思ってたんだ。本当に呑んでいいのか?本当だな?俺が言い出したんじゃねぇからな。」

三年ぶりの酒を口元に運んで,,,

「ん…。止しておこう。また,夢になるといけねぇ〜」。
 
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「お前は何でいつも着物を汚してくるんだい!」

「みんなで懲役ごっこしているんだから仕方ないだろ!」

「隣の新ちゃんだって一緒にやっているのに,着物汚れてないじゃないか!」

「だって,新ちゃんは終身懲役だもの。こっちは,たった二年の端 (はした) 懲役だから,畚 (もっこ) 担ぎなんかしなきゃならないんだよ。」

「するって〜と,終身懲役ってのになりゃ着物を汚さないんで済むんだね。」

「檻に入ってじっとしているだけだから,,,」

「それじゃ,母さんが,あんたを終身懲役にして貰うように頼みに行ってくる。」

 

ここで一つ問題があるんです。イオンが透析液へと動く力は濃度差です。つまり,透析液中のイオン濃度が上昇すると透析能力が無くなってしまうんです。このような場合,新鮮な透析液を流し続ける,あるいは大量の透析液を用いてイオン濃度が上がらないようにすれば,綺麗に透析することができます。しかし,ICでは抜き出したイオンを分析対象としますんで,このような方法だと分析対象のイオン濃度は試料溶液よりも遙かに薄い濃度になってしまいます。という訳で,これまでは低分子分析の抽出処理にはほとんど用いられなかったんです。

ところで,透析液は閉じこめておいたまま,試料溶液を流し続けるとどうなるでしょう。試料溶液をどれだけの時間流すかは後にして,最終的には透析液中の低分子濃度は試料溶液中の濃度と同じになりますよね。この方法を用いると,イオンが希釈されることなく抽出できます。但し,試料溶液が沢山必要になりますけど,,,,

図2に,Metrohm社のダイアリシスセルの構成を示します。透析膜には,通常セルロースメンブレンフィルタを用いますが,イオン交換膜や限外濾過膜も使用可能です。流路はどちらも渦状になっていて,流路の容量は数百µLです。この渦巻き状の流路の片側に試料溶液を流し,反対側には純水を封入します。一般的な試料からの無機イオンの透析は,5〜15分くらいで完了です。片側の流路に試料溶液を流すだけですから,操作も簡単で汚染も生じません。一つ処理をしたら,両方の流路を純水で洗浄すれば,繰り返して使用することができます。

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「『水は低きに流れる』ですね。誰だって,本音は楽な方がいいってことなんですね。」

 

「今年のテーマの『前処理』がいい例ですよ。ICなんてのは夾雑物との戦いなんですから,,,測りたいもんとの差が1000倍以上,時にゃ100,000倍なってのもざらにある。此奴等を取り除かないで,何が定量ですか,,,巫山戯るんじゃないですよ。手を抜く奴の気が知れない。」

 

「そうですね。ICに限らず,前処理は分析者の腕の見せ所だし,分析精度の善し悪しは前処理にすべて掛かっているといっても過言じゃありませんね。」

 

「そうでしょ。そうでしょ!希釈一つ取ったってマイクロピペットやホールピペットを斜めにしている奴がいるし,ろ過や固相抽出の時も力任せに押し込んでいる奴も多い。試料が濁ってても知らん顔。これじゃ,うまく行く訳ゃない。その癖,メニスカスだけは妙に正確に合わせたりして,,,そういう奴に限って希釈率の計算やモル計算何かをよく間違えたりして,,,」

 

「はぁ。相変わらずの悪口ですが,確かにそういうこと多いですね。神経の使いどころを間違えているんですね。もう少し,基礎をしっかり勉強して貰わなきゃいけないんですね。」

 

「そりゃそうなんだど,分析化学の教科書見せたって覚えやしませんよ。こうしなさいって書いてあるけど,しなかったらどうなるのかは書いてないし,何故ってことも書いてないことも多い。教科書なんかいくら見たって基礎は身に付きませんよ。本当に痛い目に遭うまでは,,,」

 

「確かに,分析化学の授業は面白くはなかったですね。特に,計算問題なんかはね。理屈さえ判れば直ぐに解けるんですが,その理屈がなかなか覚えられませんでしたね。必要に迫られて必死で勉強したら以外と簡単に覚えましたけど,すべて学生時代に教えて貰っていましたよ。」

 

「千駄木のご隠居の先生は優秀だし,教えてくれた先生もいい先生だったんですよ。私なんかは遊び呆けてたんで,碌に授業は受けてない。さっきの落語の『枕』そのもんで,雀荘があれば麻雀,居酒屋があれば酒,ってなもんでしたね。いい先生だったんかも知れませんが,面白くないと駄目ですよ。私はすべて経験則。理論より実験です。実験量だけは負けませんよ。」

 

「神明町のご隠居さんの実験量は凄いですよ。『化学は実証の学問』ってのを地でいってますね。確かに,いい先生,いい環境の下にいたって興味を持てなきゃ駄目ですね。」

 

「でしょ。こないだ,学生さん相手に講義をしたんです。『分析化学はつまらない』って。けど,分析化学の授業なんで,『分析化学は色んなとこに役立ってる。だから,自分の趣味なんかを通して,分析化学と繋げるようにしなさいな』なんて,私の経験論を話してきました。」

 

「ほうぉ。面白そうですね。私も聞いてみたいなぁ〜。寺社仏閣と分析化学ですか?」

 

「それもいいけど,そりゃどう話すかが難しいねぇ〜。今回は,考古学そして犯罪と分析化学。実際,考古学遺物の調査・解析には分析機器が一杯使っているんですよ。蛍光X線,電顕,FT-IR,透過型X線,CT,,,それにクロマトグラフィーだって。犯罪捜査も同じですよ。」

 

「そうですね。自分の興味とどこかで繋がれば,分析化学の役割は見えてきますね。」

 

「一寸でも見えりゃ,多少は面倒臭い理論も少しは頭に入るでしょ。『現実と理論の融合』って奴です。分析化学に限る訳じゃないけど,何かに興味を持ったら,真摯な態度で,『見詰める』,『調べる』,『解析する』ってのを直ぐに行動することが重要だって云ってきました。」

 

「素晴らしい話ですね。それって科学の本質そのものですね。大いに勉強になりました。」

 

 

「嫌だな。頭なんか下げないで下さいよ。廻りが見てますよ。色んな人が書いた文章からの受け売りなんだから,,,それにしても,番頭さん達はやけに遅いね。出際に大旦那にでも捕まったかな。相変わらず,チョイと愚図だね。早く来てくんないと,碌に美味しいもんも喰わずに出来上がっちまうよ。美味そうな鶏鍋が待ってるってのに,,,」

 

「云ってる傍から,お出ましですよ。皆さん揃ってるようです。番頭さぁ〜ん!こっちですよ〜!神明町のご隠居さんが出来上がっちゃいますよ。さぁ,色々頼んで盛大にやりましょう。」

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今日は,年末締めの飲み会でした。海の向こうじゃ「クリスマス」なんて云っていますけどね。千駄木の隠居と先に来てちびちびやっていたんですが,皆が遅いんで久々に結構真面目な話をしてしまいました。一寸した座談会ですな。なかなか皆が揃わないんでかなり酔っぱらってしまいましたが,楽しい年の瀬を送ることができました。人形町もいいところですね。

さて,突然ですが,『コラム:ご隠居達のIC四方山話』は今回でお開きとさせて頂きます。

先代の大旦那に頼まれて以来,千駄木のご隠居さんの助けを借りながら,概ね三年も続けてまいりました。我ながら,良く続きましたって感じです。別に,病んで寝込んでいる訳じゃありませんし,まだまだ体も頭も動きます。前々から,頭の動く内に後進に譲るべきだなんて考えてました。そこで,新しい年を迎えるのをいい機会に,装いを新たにって考えた次第です。次回からは,Metrohmさんの若い衆が書くことになっていますんで,一読者としてコラムを読ませて頂くことになります。けど,何もしないのも寂しんで,時々は割って出ようかとも考えてるんですが,『年寄りは引っ込んでろ!』なんて云われちまうかも知れません。本コラムに掲載したものは,元気なうちに書き直して,時期を見てお見せしようかなとも考えてます。皆様と何処かでまたお目にかかれることを楽しみにしております。では,,,皆様もお元気で,,,

最後に,本コラムの執筆にあたり,種々情報を提供してくださると共に,期限も守らず誤字脱字の多い拙文を嫌な顔一つせずに校正して頂きましたメトロームジャパン株式会社ICチームの皆様にこの場を借りて深謝致します。

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

 

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