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雨水をイオンクロマトグラフで測定する際のテクニックとヒントをご隠居さんが紹介します。イオンクロマトグラフは環境分析で広く使われており、酸性雨の分析などができます。

シーズン1 その貳拾伍(二十伍)

ご免下さ〜い!ご隠居さんおられますか〜!」

「おや,番頭さんかい。うちに来るのは久しぶりだね。」

「直ぐ傍に住んでいながら済みません。二っ停留所なんですが,これが以外に遠いんですよ。」

「まぁ。いいよ。お忙しそうで結構だ。商売人が暇じゃしょうがないもんね。」

「実は,雨の採取なんですけどね。大学の先生が,一緒に持ってこいってんですよ。どんなもん,選びゃいいんですかね?」

「雨ですか,,,随分昔だけど,手伝わされたね。雨の採取なんて,今も昔も変わらないんじゃないかい?この話は,私よりも,御本家の柴田さんに聞いたほうが早いんじゃないかい?」

「やっぱりそうですよねェ。明日にでも行って聞いてきますけど,折角だから雨の分析について少しは話して下さいよ。」

「それじゃ,ありふれた話かも知れないけど,軽くやりながらでも話をしますかね。これから用意するけど,一寸待ってくれるかな。」

 

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雨ってのは,空から落ちてくる水滴ですな。凍っていりゃ,雪とか霰 (あられ) だね。

大気中の水蒸気が凝結して細かな粒になって雲ができ,その粒が更に成長して雨粒になって地上に落ちてくるってことですよね。雨を降らす雲は大体500〜2000mの高さにあるから,小さい雨粒は途中で蒸発してなくなってしまうし,大きいものは壊れて小さくなってしまう。

ってことで,雨粒の大きさは0.1〜3mmだそうですが,0.5mm以下の弱い雨は霧雨って云って,大きさで分けられているみたいです。

ちなみに,霰と雹 (ひょう) の区別も大きさで,直径が5mm未満のものが霰,直径5mm以上は雹って云うんだそうです。

ついでに,雨に関わる蘊蓄をもう一寸。雨の形が涙滴型ってのは嘘だって皆さんご存じですよね。液滴は,表面積を小さくした方が安定だから雨粒は球状って思っていませんか?

実は,落ちてくる時に空気抵抗があって,下の方が平らになっているんです。丁度,薄皮饅頭や温泉饅頭のような恰好なんですよ。

もう一つ,雨が降りだした時,独特な臭いがありますよね。けど,雨自体には臭いはないんですよ。この臭いは,雨が降って湿度が上がったことによって地面から出される臭い (ジオスミン [geosmin] とか,ペトリコール [petrichor]) なんだそうです。

ジオスミンはカビ臭の成分の一つで,2-メチルイソボルネオール (2-Methylbornanol) と共に水道水質基準の一項目になっています。ジオスミンって名前は凄いですね。「大地の (geo-) 臭い (Smell)」ですものね。ペトリコールのほうはまったく判りませんが,粘土の成分みたいですよ。舗装道路でも臭うってことは,アスファルトからも何かが出てるってことだよね。一寸怖いね。

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さて,雨の分析の話ですが,気象学関連だけではなく,我々の生活や自然環境さらには地球環境の点からも重要です。

有名なのは『酸性雨』ですな。石炭や石油等を燃やすと,硫黄酸化物 (SOx) や硫黄酸化物 (NOx) ができてしまいます。これらが,大気中に放出されると,光化学反応によって酸性物質 (硝酸や硫酸) に変化します。

これらの酸性物質が溶け込んだ雨が酸性雨です。pH計で測った時に酸性を示せば酸性雨ってことじゃありません。普通の雨だって炭酸ガスが溶け込んでいますんで,酸性物質の影響がなくでも酸性 (pH 5.5〜6.0) を示します。

ということで,日本ではpH 5.6以下 (アメリカはpH 5.0以下) のものを酸性雨と呼んでいます。昔のデータですが,東京周辺の雨はpH 4.5〜5.0でしたんで,酸性物質が溶け込んだ酸性雨ですね。

雨の中のイオン性成分としては,Cl-,NO3-,SO42-等の陰イオンの他,Na+,NH4+,Ca2+等の陽イオンが検出されます。都市部の雨水中のこれらの濃度は,Cl-:0.5〜2 ppm,NO3-:1〜2 ppm,SO42-:3〜5 ppm,Na+:0.4〜1 ppm,NH4+:0.5〜1 ppm,Ca2+:0.5〜1.5 ppmといったところです。また,K+ (0.05〜0.01 ppm) やMg2+ (0.1〜0.3 ppm) も検出されます。この程度の濃度ですので,ICの測定は容易です。

雨水を測定する場合でも,濾過は必要ですよ。採取法にもよりますが,粒子状物質の他,木の葉や草なんかも入ってきてしまいますんで,必ず採取したら直ぐに濾過をしてください。最悪なのは,虫の死骸や鳥の糞です。こんなもんが入っているようだったら,採取法が間違っています。

庭にバケツを置いて,なんてんじゃいけません。ちゃんとした採取装置を使うべきですね。 採取装置については専門じゃないんで,その筋の専門家に問い合わせてください。

雨が降り始めてから蓋を開けて採取をしてくれる,感雨センサー付きのものを用意するとよいと思います。また,雨の成分は降り始めから,時間の経過と共に徐々に変化していきます。雨水の研究においては,ここんところが重要だそうです。

このような目的には,初期降雨を分割採取できるような採取装置を選択するとよいと思います。

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あまり経験のない領域の話なんですが,概ね合っていると思いますよ。こんな感じで何とかなるんじゃないですかね?しかし,奴はよく食べやがったね。鳥大根と鰯の七味焼きは残しておいて,明日もう一度と思ってたんだけどね。立端のある奴は,喰う量も半端じゃないね。スッカラカンですよ。まぁ,美味そうに喰って帰ったんですからよしにしてあげましょうかね。今夜も冷えてきましたから,もう一杯だけ引っ掛けて寝ることにしましょうかね。

では,また。

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

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