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有機酸分析はイオンクロマトグラフでできますが、前処理が大切です。イオンクロマトグラフで有機酸を分析する際の注意点をご隠居さんが試料の前処理方法から解説します。

 

シーズン1 その貳拾参(二十三)

「ご免下さいよ」

「おや,音羽のご隠居さん。今日は何処まで?」

「湯島の天神様ですよ。案の定,まだ梅が残っていましたよ。今年ぁ,寒いからね。」

「来て頂いて,次いでで申し訳ないんですが,,,有機酸の前処理なんですが,,,」

「有機酸を取り除くのかい?これは難しいよ!」

「いいえ,そうじゃなくて。有機酸分析ですよ。試料は排水みたいなんですがね。」

「そうですか。WMetrohmさんも固相抽出カートリッジを持っていますよね。H+型のものはありましたかな?」

「ええ,ありますよ。"IC-H sample preparation cartridge" って名前です。」

「そうですか。それを通せばいいんですよ。」

 

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有機酸分析 (イオン排除モード) は,H+型の陽イオン交換樹脂と有機酸イオンとのイオン反発力を利用して分離を行うものです。溶離液には,薄い過塩素酸や硫酸の水溶液を用います。場合によっては,アセトンやアセトニトリルを10〜20%添加します。充填剤の負電荷と有機酸の負電荷との反発力で分離しますんで,反発力の強いものから出てきます。塩酸や硝酸等はイオン性が強くて非常に強く反発しますので,ウォーターディップのところにまとまって溶出します。

前処理ってのは分離や検出しやすくするために行うものですが,カラムの保護のためにも重要です。有機酸分析のカラム充填剤はH+型の陽イオン交換樹脂ですので,カラムに吸着してカラム性能を低下させてしまうものは,陽イオン,金属イオン,疎水性の強い有機物ってことになります。これらを取り除くことができれば,カラム性能を低下させてしまうことはありません。 カラムに吸着するものを取り除くには,カラムの充填剤を同じものを使えばいいんですよ。カラムに吸着するんだから,取り除けるはずですよね。ということで,H+型強酸性陽イオン交換樹脂 (ポリスチレン基材) が充填された固相抽出カートリッジを使えばいいんです。

この固相抽出剤の基材樹脂はポリスチレンですよね。だから,疎水性の化合物は基材樹脂との疎水性相互作用により固相抽出剤に吸着されるんです。また,重金属は陽イオン交換相互作用により固相抽出剤にイオン交換的に吸着されます。当然,ナトリウムやカリウム等の陽イオンだって,イオン交換的に吸着されます。この時,有機酸は,イオン交換基との反発によって,固相抽出剤に保持されることはありません。どうです!簡単ですよね。

ただ,一寸だけ注意が必要です。固相抽出剤から分析対象と同じイオンが出てきてしまったらどうしましょう。これではとんでもないことになってしまいますよね。イオン交換樹脂から有機酸なんて出てくるとは思わないかも知れませんが,微量の酢酸やギ酸が出てくることがあります。そのため,使用前に十分な洗浄が必要です。
固相抽出カートリッジの洗浄は,純水あるいは溶離液を10〜20 mL通液して行います。多くの場合,この純水洗浄で十分です。しかし,洗浄が不十分と思える場合には,メタノールあるいはアセトニトリルを5〜10 mL通液後,純水を10〜20 mL通液させるという方法を用います。

操作方法は簡単です。下図のように,洗浄後の固相抽出カートリッジに試料溶液を通液し,最初の溶出液1〜2 mLを捨て,それ以後の溶出液を採取して測定溶液とします。

 

この方法は分離カラムと同じ相互作用で前処理を行っていることになりますので,処理溶液は安心してカラムに注入することができます。但し,長鎖の脂肪酸や芳香族有機酸等の疎水性の強い有機酸は保持されてしまう恐れがありますので,これらを分析対象とする場合には,どの程度回収されるのかに関して詳細な事前試験が必要です。例えば,試料溶液に有機溶媒 (メタノールあるいはアセトニトリル) を添加するとか,標準試料溶液通液後にメタノールあるいはアセトニトリルを添加した溶離液を通液して回収する等に関して調べて下さい。

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一杯引っ掛けると温まるんですが,またタクシーになってしまうのもまずいんで,今日は寄り道しないでさっさと帰ることにしましょう。では,また来月にでも。

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

 

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