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クラウンエーテル (crown ether) とは環状ポリエーテルのことです。王冠みたいなのでクラウンと言います。イオンクロマトグラフィでクラウンエーテルを使うと分離が改善されます。ご隠居さんがその理由を解説しています。

シーズン1 その拾参(十三)

「ごめん下さいよ。番頭さんはいますかな?」

「あっ,音羽のご隠居さん。ひょっとして根津神社の躑躅祭りですか?」

「おや,いい読みしてますね。けど,人出が凄いの凄くないのって,疲れちゃいましたよ。」

「温気もいいし,丁度見頃ですからね。明日から,陽イオンの分離の件で,ちょいと駿河のほうに行くんですけど,,,クラウンを入れるといいっていうのは判るんですが,理屈はどんなもんなんですかね?結構,理屈っぽくて細かい人なんで絶対聞かれると思うんですよ。」


「クラウンエーテルの話ですよね。ナトリウムイオンとアンモニウムイオンの分離を良くするんですか?Metrohm さんでも昔から良くやってるんでしょ?」

「確かにやってはいますけどねぇ〜。陽イオンを輪っかん中に取り込んで吸着するんですよね。けど,細かな理屈がちょいと,,,」

「そうですか。それじゃ,簡単に説明しますかな。」

 

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クラウンエーテル (crown ether) ってのは,環状ポリエーテルです。エチレングリコールが幾つか付いて輪っかになっているんです。
王冠みたいになっているんで,クラウンっていうんです。此奴等はね,とっても面白い性質を持っているんですよ。
輪っかの中に陽イオンを取り込む (包接っていいます) んだけど,輪っかの大きさとぴったり合う大きさの陽イオンをとても強く取り込むんだ。一種の金属錯体なんだが,王冠型錯体っていわれてます。

下の図は,18個の原子で作られた18員環に6個のエーテル酸素を持っている18-crown-6です。この輪っかの内径は0.276 nmっていわれていて,カリウムイオンの大きさとほぼぴったりなんです。
結果として,カリウムイオンの安定度定数が最も高いんです。孔の大きさ,員環数の異なるいろいろなクラウンエーテルが合成されています。12-crown-4とか15-crown-5なんかがあります。

もう一つ面白い性質があるんです。

ナトリウムやカリウムイオンは有機溶媒にはほとんど溶けないですよね。ところが,この王冠型錯体は有機溶媒に良く溶けるんですよ。つまりね。水ん中からカリウムイオンを選択的に溶媒抽出することができるって訳です。所謂,疎水性になるんですな。24-crown-8あるいはその誘導体を持ってくると,セシウムイオンが選択的に入り込むんで選択的抽出ができるらしい。

分子模型を持っていますかね?持っていませんかぁ〜。それじゃ,パソコンで見てみますかね。きちんとした最適化ができないんで厳密じゃないけど,下の図のようになります。一番右がカリウムイオンを取り込んだ形です。面白いでしょ。

ICの陽イオン分析ではこんなクラウンエーテルの性質を利用して,分離の改善を行うんです。

下の図を使って説明しましょう。Na+,NH4+,K+ が試料としてカラムに注入されたとしましょう。カラムには陽イオン交換樹脂が充填されているので,これらは陽イオン交換モードで分離しますよね?溶出順序は,Na+ < NH4+ < K+ でいいですよね?この時,溶離液の硝酸濃度をいくら変えたって,分離は改善できませんよね。そこで,18-crown-6を添加します。1〜10 mMの範囲ですかね。すると,陽イオンは18-crown-6と錯体を形成しようとします。けどね,表をもう一度みて下さいね。K+ の大きさがぴったりなんですよね。NH4+ は,Na+ と K+ の間の大きさです。ということで,包接する強さは,Na+ < NH4+ < K+ ってことになりますが,Na+ なんかはほとんど錯を作っていないんです。
この王冠錯体は,疎水性だっていいましたよね。王冠錯体を作ると基材樹脂との疎水性相互作用が出てくるんです。つまり,Na+ はイオン交換だけ,NH4+ はイオン交換と一寸だけの疎水性相互作用,K+ はイオン交換と強い疎水性相互作用で分かれることになります。ということで,K+ が特異的に遅れてくるって訳です。何となく判りましたかな?

 

18-crown-6の添加量を変えるとどうなるのかっていうデータがあります。
18-crown-6の添加量を大きくすると K+ が特異的に遅れてきます。NH4+ も遅くなってくるのですが,K+ は NH4+ 以上に激しく変化します。Ca2+ も遅れていく傾向にありますが,その他の陽イオンはほとんど変化しません。つまり,18-crown-6の添加量で分離の調節をすることができます。この時,温度も変化させると微妙な調節が可能ですよ。但しね。調子に乗って18-crown-6を入れすぎると Mg2+ と重なってしまうかも知れませんので,まずは1 mM程度入れて分離の改善度合いを様子見て,それからさらに足すようにして下さいね。何事も慎重にですよ!

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今回は,一杯絵を描きながら説明したから,よく分かってくれたんじゃないかと思いますが,,,何々,判ったけど,上手く話せるか心配だって,,,困りましたね。今日の話を頭に浮かべてね,相互作用の絵なんか見せながら話をすりゃ何とかなりますよ。しっかりとやってきて下さいね。いい感じに喉が渇いてきましたよ。この辺りで終わりってことで,一寸その辺でどうですかね?出したもんを片づけるくらいならお待ちしますよ。外で一服してますんで,さっさと片づけて下さいね。

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

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