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ポストカラム法とは分離カラムの後ろで何かをすることです。イオンクロマトグラフィでのポストカラム法(正しくはポストカラム誘導体化法)の原理と利点について、ご隠居さんがわかりやすく解説します。

シーズン1 その拾貳(十二)

桜咲く春!ですか,,,急に暖かくなってきましたね。

またまた音羽の隠居が行方知れずですんで代講です。ちょいちょいいなくなっちまうんですよね。夜桜が怖いって云ってるし,人混みが嫌いだから,花見ってこたぁなし,徘徊するほど耄碌もしてないし,,,また,蕎麦屋で一杯ですかな?あのご隠居を見つけ出すのは至難の業ですよ!

四月といえば,新入学・新入社。新人さんをいっぱい見かけますね。初々しくていいですねぇ〜。もう一度戻って,人生やり直したいねぇ〜。けど,何故だか新人さんだって一目でわかりますね。十中八九外れない。上手くいえないけど,当たるんですよね。不思議ですねぇ~。

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「ごめん下さいよ。番頭さんはいますかな?おや,寛さんだけですか?」

「あっ!千駄木のご隠居さん。番頭さんは,ちょいと急ぎの用で本町の薬種問屋まで。夕方には戻ってきますんで,お待ちいただきたいとのことです。ところで,今日はお暇ですか?」

 

「あたしゃ,いつでも暇ですけど,何ですかな?」

「上野の御山の桜がまだ残ってるってんで,早く切り上げて,ご隠居さんとうちの若いもんだけでお花見に行こうっていう趣向なんですけど。」

「今年は寒かったから,まだ結構残っていそうだね。花見の件は番頭さんから聞いていますよ。けど,大根の香子の蒲鉾と沢庵の卵焼きてんじゃ嫌ですよ。」

「そんな〜。長屋の花見じゃあるまいし,,,裏の扇にお弁当を頼んでありますよ。お茶気じゃなくて,本物のお酒も確保済みです。酒柱は立ちませんからご安心下さい。」

「そうですか,そりゃ楽しみですな。音羽のご隠居も一緒だと楽しいんですがね,何処に行っちまったんだろうね。夜桜も悪くないのにね。」

「音羽のご隠居さんは結構鼻が利きますから,夕方くらいに顔を出すんじゃないですか?」

「確かにねぇ。花の臭いじゃ来ないでしょうけど,酒の臭いにゃ敏感ですからね。」

「ところでご隠居さん。ポストカラム法ってのが今一つピンと来ないんですよ。どんな試薬を使うだとか,システムをどうするだとか,条件設定だとか,,,」

「Metrohm さんだって,シアンや臭素酸の測定システムを売っているじゃないですか。遷移金属のデータだって持っているんでしょ。さほど難しい話じゃないんだけど,やり慣れていないからしっくり来ないだけなんじゃないですかね?それじゃ,少し解説しましょうかね。」

ポストカラム法ってのは,分離カラムの後ろで何かをするってことです。「ポスト」ってのは,「郵便受け」や「ゴールポスト」のことじゃなくて,「その次」,「それ以後」っていう接頭語です。反対語は,「プレ」ですよね。ポストカラム法ってよく云いますけど,正しくはポストカラム誘導体化法です。測定対象成分を分離カラムで分離後,分離カラムからの溶出液に測定対象成分と特異的に反応する誘導体化試薬を加えて,化学反応でもって測定対象成分を検出しやすい形に変換して検出する方法です。電気伝導度検出器じゃ検出できない成分の検出に利用します。

この方法が最初に使われたのは金属の分析です。電気伝導度検出器を使って遷移金属類を定量する場合じゃ,ppm (mg/L) レベルがやっとこですよね。これじゃ排水基準の測定もできません。感度のほうもそうだけど,今話題のレアメタルの希土類はグラジエント溶出しなきゃ一斉分析はできない。有機酸濃度のグラジエントだから,電気伝導度検出器じゃどうやっても無理ですね。そこで,遷移金属や希土類と反応して色を出す試薬を使って検出するんです。

ポストカラム誘導体化法を行う場合に最も重要なのは試薬の選択なんですが,まずは測定システムの話からいきますよ。

ポストカラム誘導体化法の基本的システムを図1に示します。ICシステムのサプレッサの代わりに混合器と反応コイルが入ります。混合器は単なる三方のコネクタで十分,反応コイルは配管に使われるチューブを5〜10 m巻いたもんです。システム的には簡単ですね。Metrohm さんとこの850 Professional ICなら直ぐにでも変更できますよ。ただ,使う反応によっては,2種類の試薬を使ったり,pH調整が必要だったりで,反応液ポンプ,混合器,反応コイルは2組必要です。シアンや臭素酸は2段階反応ですよね。ポンプの脈流はベースラインノイズに大きく影響しますんで,できる限り脈流の小さなものを使って下さいね。検出器には蛍光検出器や電気化学検出器も使われることがありますが,紫外可視吸光光度検出器を使うことが多いですね。

ところでね。このシステム図を見ていて何か気が付きませんか?分離カラムを外してみるとどうですか?判りませんかね。フローインジェクション分析 (FIA) のシステムそのものなんですよ。つまりね。ICで検出しにくい成分をFIAの検出力で,FIAで妨害したりする成分をICの分離力で,補っているんですよ。ということで,FIAの本をよく読んで勉強すりゃ,ポストカラム誘導体化法をもっと理解することができますよ。


次は,肝心な誘導体化試薬の話です。吸光光度検出に話に絞りますけど,,,


試薬の選択はさほど難しくはありません。いわゆる吸光光度法に使われる発色試薬を使います。同仁化学研究所の試薬カタログを見ると一杯載っています。また,FIAや吸光光度法の本にも載っています。ただ,ICの溶離液は基本的に水溶液ですんで,水に溶ける試薬じゃないといけません。アルコールやアセトン位なら入れてもいいですけどね。


他にも幾つかの制約があります。流れの中で反応させるんで,反応時間が短いものじゃないと,反応コイルが長くなりすぎて,折角分離したピークが広がってしまいます。目安としては2分以内ですかね。反応コイルとして0.5 mm x 10 mが上限ですね。但し,再現性があって,目的の感度さえ出れば,反応が完結していない条件で検出しても問題ありません。また,反応温度 (反応コイルの温度) を高くして,時間を縮めるっていう手も使えます。シアンの条件では100 °Cまで上げていますよね。けど,40〜50 °Cがいいですね。これだと,カラム恒温槽内に反応コイルを入れればいいんで楽ですね。

もう一つは,誘導体化試薬と反応生成物のスペクトルです。図2を使って説明しますよ。

Aのスペクトルを持つ試薬を使って反応させた時,反応生成物のスペクトルがBであったとしましょう。極大吸収が620 nmですんで,この波長で測定すれば問題なく検出することができるということが判りますよね。ところが,Cの試薬を使ったとするとどうでしょう。同じように620 nmで検出できるにはできるんですが,試薬自身にも620 nmに吸収がありますよね。反応生成物よりも試薬の濃度のほうが遙かに濃いはずですから,高いバックグランドで微妙な吸光度変化を測定するってことになっちゃっいます。これじゃ,高感度化は望めません。それでは,Bが試薬,Aが反応生成物だとしたらどうですか?この場合も,Aの極大吸収に試薬Bのスペクトルが重なっていますから駄目ってことになりますね。けど,Bの谷間の465 nmを使えば,バックグランドが低いので高感度化が期待できるってことになりませんか?普通,吸光度測定ではスペクトルの斜面で測定しちゃいけないんですが,反応が安定してさえいれば再現性良く測定することができます。このように,事前に試薬と反応生成物のスペクトルを調べておかなければ,期待通りの結果を得ることはできません。一寸厄介なんですが,とっても重要なことなので必ず調べておいて下さいね。図3に臭素酸測定の時のスペクトルを示しますけど,巧みに逃げてるでしょ!

ついでに,妨害成分の影響も調べておくべきですね。FIAでは目的成分以外に試薬と反応する成分が共存していると測定できませんけど,ICは分離分析ですんで,夾雑成分との分離が可能です。ポストカラム誘導体化がいくら選択性の高い検出ができるっていったって,やはり分離が重要なんです。簡単に分離できりゃ前処理も楽になりますしね。逆の見方をすると,多成分の分離が上手くできていれば一斉分離ができるっていうことにもなります。実際,遷移金属類に用いるPAR [4-(2-ピリジルアゾ)レゾルシノール] は20種類以上の金属と反応しますし,アルセナゾ-IIIはランタノイドの他,アクチノイドやアルカリ土類等とも反応しますんで,分離さえ良きゃかなりの成分の一斉分析法ができます。反応する成分が少ない試薬を選べば,選択的検出になります。
それじゃ,どのくらいの高感度化ができるかってことなんですが,,,

これは反応生成物の吸光係数から大凡見当が付きます。多くの場合,反応生成物の吸光係数  は 5x104 (mol-1 L cm-1) 以上ですから,1 mAUの信号を得るには,単純計算で0.02 µmol/Lの濃度があればいいことになります。遷移金属類であれば,一桁ppb (µg/L) が楽に定量できることになります。検出器や分離カラムの性能が良ければ,これよりも低いところまで定量できますよ。ちなみに,シアンや臭素酸はサブppb (µg/L) の定量が可能ですよね。

実際に測定方法を作る場合には,試薬濃度,流量,温度,コイル長等の細かな実験をして最適条件を決定するんです。当然,夾雑物による影響評価や,既存法との検証が必要です。理屈は簡単だけどやるのは少々大変ですな。最後に少しだけ表1に応用例を示しておきましょう。

 

 

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話が長くなりましたが,何となく判りましたかな?

おやっ,番頭さんがお戻りですね。あれっ!何で音羽のご隠居も一緒なんだい?

えっ,コラムの原稿書くのを忘れたんで,謝りに来たって?

何云ってんだい!もう私がやっちゃいましたよ!しょうもないね。

さぁ,扇のお弁当ももう届いてるってんで,上野の御山に繰り出しますか?それっ!花見だ,花見だ! (夜逃げだ,夜逃げだ!) 誰だい変なこと云ってるのは?音羽の隠居かい?

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

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