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イオンクロマトグラフの装置内でコンタミネーション(汚染)が起きる原因とその対処法について、ご隠居さんがわかりやすく解説しています。

シーズン1 その拾壱(十一)

「ご隠居さ〜ん!いらっしゃいますか〜」

「あぁ,Metrohm さんとこの寛さんか。また走ってきたのかい?まぁ,お上んなさいな。」

「音羽のご隠居さん!硫酸がコンタミするって有りますかね?」

「話が唐突だね!そりゃ,状況によってはあるけど,細かく聞かないと何ともいえないね。」

「実は値が合わないってんですよ。何だか,樹脂製品中の無機イオンを測っているってんですが,,,番頭さんと付き合いが古いってんで,一度うちで試してあげた試料なんですよ。塩化物はうちでやった値とほぼ同じ,硝酸は若干大きいんですがそこそこで。けど,不思議なのが,うちじゃいなかった硫酸がいるんです。亜硝酸も少し見えますね。」

「ふ〜ん。不思議だね。普通環境中からの汚染は,塩化物や硝酸ですけどね。硫酸ですか〜?樹脂製品って云ったけど,どうやって抽出したんだね?一回溶かしたんかい?」

「そんなぁ〜面倒臭いことはしませんよ。純水に入れて超音波ですよ。」

「表面に吸着してる分だけですか。結構な低濃度ですよね。亜硝酸は何となく判るけど,硫酸なんですよね?そこのお客さんでは金属分析はやっていますかな?やってない。無機のイオンばかりですか。それじゃ,吸光光度法なんかはやってるんだね?」

「確か,廃水も測らされているって,,,アンモニア,クロム,ホウ素,,,それに全窒素,全リンはやっていると思いますが,,,あぁ,フッ素やシアンもたまにやるって云ってましたね。」

「原因はそれだね。多分,実験室の環境からの汚染だね。一寸説明してあげるから,戻ったらお客に確認してみて下さいな。」

 

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低濃度試料の測定を行う時は色んなところからの汚染に気を配らなきゃいけません。試料容器はもとより,計量器具,ろ過フィルタ,そして室内環境です。

容器の汚染を調べるには,採取したての純水を満たしてしっかり蓋を締め,超音波を5〜10分かけてから,中の純水をICで測定してみれば判ります。計量器具は超音波をかけられませんから,純水を封入して1時間くらい放置してから,同じようにICで測定してみて下さいな。濾紙やろ過フィルタは純水を入れたビーカーに入れて,時計皿でもおいて,同じように超音波を5〜10分程度かけてから,中の純水をICで測定してみて下さい。他の道具も同じようにすればいいと思います。こんな事をやってみれば使う道具からの汚染を知ることができますよ。

環境からの汚染は,ガス吸収瓶に純水を入れ,エアーポンプなどで空気を引っ張って,10〜30分ブクブクやってみれば,水に溶けやすいもんが純水に吸収されます。これをICで測ればいいですね。エアーポンプが無ければ金魚鉢のポンプでもいいですよ。けど,必ず出口側からの吸引でやって下さいね。加圧でやるとポンプの汚れも来ちまいますんで,何をやってるんだか判らなくなっちまいますから,,,

手頃なポンプがないって時には,ビーカーに水を入れて実験室の端にでも半日位打遣っておけばいいですよ。いい加減なようだけど,クリーンルームの汚れなんかもこんな方法で測定しているんですよ。あっ,そうそう。実験室の端だけじゃなくて,実験台や試薬の秤量台,それに試料保管庫なんかも調べておくといいですな。あと,忘れちゃならないのが,ドラフトの中だね。ドラフトの中はつい綺麗だと思いがちですが,よ〜く考えてみてご覧なさい。危ないものや汚いものを扱うためにドラフトがあるんじゃないですか。ってことは,ドラフトの中はかなり汚れているって事ですよ。ラボフードなんかも同じなんじゃないかな?

で,どんなイオンが汚染するかって云うと,まずは塩化物イオンにアンモニアだね。此奴等はガスで飛んでいるんで始末が悪い。結構きれいなラボの中だって,純水を数時間もほったらしておくと1 ppb (µg/L) 位汚染してしまう。アンモニアも同じくらいだったかな。周りで塩酸やアンモニア水を使っていたら,ppm (mg/L) レベルも汚染してしまう。とんでもないことでしょ?だから,ICで使用する純水は溜め置きしちゃいけないんですよ。取り立てを使って下さいな。お刺身だけじゃなく,何事も新鮮なのが一番ですよ。

硝酸もガスで飛んでいるんで,同じような注意は必要だね。特に,金属分析をやっているところでは,硝酸を山ほど使っているよね。でもって,加熱なんかをするから,一杯飛んでいますよ。そんなところじゃ,ppb (µg/L) レベルの測定は難しいね。

ナトリウムやカルシウムも結構問題になるんだが,此奴等はガスじゃない。塵や埃,繊維屑なんかが入ると一気に増える。だから,窓を開けてあったり,出入りの多いところじゃいい結果が出るわきゃない。試料瓶にはしっかり蓋をしなきゃいけないね。

硫酸やリン酸の汚染は意外と少ないんだ。よっぽどのことなきゃガス状にはならない。普通はミストで飛んでいるんじゃないかな?金属分析の部屋じゃ硝酸と一緒に硫酸を使うから,気をつけにゃいけません。けど,普通のラボだったら,数時間純水を放置したってせいぜい1 ppb (µg/L) 以下ですよ。昔の経験だと,もう一桁下だったと思いますが,,,

その他には,ガス化し易い酢酸やギ酸,それにアミン類なんかの汚染の話を結構耳にしますけどね。上手く仕切なんかを作ってね,周りで何を使っているか,風はどっち向きなのか,って気を遣えば以外と汚染を避けることができますよ。

まぁ,環境からの汚染はこんなもんですかな。で,今回の汚染の話だが,,,お客さんでは,全窒素,全リンなんかも測っているって云いましたね。実際に細かく調べたことはないんだが,試料分解に使うペルオキソ二硫酸が原因じゃないかと思っているんだが,,,

ペルオキソ二硫酸カリ (アンモン) は,有機物の分解やポリリン酸の分解に使うんだ。通常は,120℃位で3,40分位かな。加熱しすぎると,亜硫酸ガスが出てきます。当然,ドラフト内でやるんだけど,同じドラフト内で超音波抽出なんかをしたら,汚染すること間違い無しです。亜硫酸ガスみたいなSOxは,NOxよりも水に溶けにくいんだけど,長い時間置いとけばそこそこ溶け込んできますよ。そこに超音波をかければSOxは酸化されて硫酸になっちまう。今回の問題も,こんなとこなんじゃないですかね?

ちなみに,超音波抽出をやっていると,亜硝酸が出てきます。硝酸も一寸は出ますけど,,,この原因が今でも分からないんだけど,NOxの影響じゃないかな?
超音波抽出を行う時は,口の小さな容器を使って,口を何かで軽く塞いでやって下さい。周りからの汚染が気になる場合には,箱みたいなもので覆いを作り被せてあげて下さいな。もっと厳密に行う場合には,その箱の覆い中に窒素やヘリウムをちょろちょろと流して上げるといいですよ。

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「桃栗三年柿八年,梨 (柚) の大馬鹿十八年,梅はすいすい十六年」なんてね。教訓的ですな。比較的直ぐに実を成す桃だって3年もかかるんです。当然,ちゃんと手をかけなきゃ美味しい桃ができません。何事も地道な努力が必要なんですな。派手な事ばかり追っかけているよりも,地味なことをきちんとこつこつやっているほうがいい結果を生むような気がしますけどね。

それでは,また来月。

 

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

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