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イオンクロマトグラフで、水中のカルシウムとマグネシウムの総量である硬度を測定すると、原子吸光の値と合わないことがあります。その原因と対策について、ご隠居さんが楽しく解説しています。

シーズン1 その漆(七)

先月は,申し訳ございませんでした。またまた,千駄木のご隠居に尻ぬぐいさせちゃって,,,月末頃はいろいろあるんで,つい締め日が頭ん中から何処かに飛んでしまいます。けど,どうして,こう直ぐに忘れちまうのかね?嫌になっちまいますね。

そうそう,茗荷を食べると物忘れをするってよく言いますけど,実はこの話しは逆なんですよ。物忘れが酷い人が先にいたんです。お釈迦様の弟子に槃特 (はんどく) って人がいてね,慈悲深く有能な人なんだが,とんでもなく物忘れが酷い。自分の名さえも忘れちまうっていうほどだ。そこで,お釈迦様は「槃特」と書いた名札を付けてあげたんだが,死ぬまで自分の名を覚えられなかったそうです。その後,槃特の墓の脇からいい香りの草が生えてきたんで,その草を槃特草と呼んだんだが,後になって「名を荷ってた」ってんで「茗荷」って名にしたって話しですよ。私は,若い頃から記憶力がいいってよくいわれたんだけど,,,近頃は,いけないね。茗荷は好きじゃないんで,子供ん頃から食べてないんだけど,,,誰ぞに盛られたかな?

話しは長くなりますけど,いい訳です。先月分の締め日 (9月24日) はお地蔵様の大祭で,巣鴨の刺抜き地蔵・高岩寺まで行ってました。「おばあちゃんの原宿」なんていわれますけど,結構見る所がありますよ。地蔵通りは元の中山道で,通りの入口にゃ立派な江戸六地蔵 (真性寺) が立ってます。地蔵最中に贅沢せんべい,塩大福に粟饅頭,そうそう,テレビで良く出る赤パンツの店もあります。近くには,遠山の金さん (遠山金四郎景元) や北辰一刀流・千葉周作の墓がある本妙寺,四谷怪談の於岩 (お岩さん) の墓がある妙行寺,芥川龍之介や谷崎潤一郎の墓がある慈眼寺もありますな。染井墓地 (染井霊園) には高村光雲・光太郎親子と智恵子の墓や二葉亭四迷 (くたばってしんじめぇ) の墓がある。墓以外にもありますよ。染井墓地は桜の名所です。染井村は「ソメイヨシノ」の発祥の地なんでね。今は季節じゃないけど,庚申塚から都電に乗って飛鳥山まで行けば,花見のはしごができますよ。一度,行ってみて下さいな。

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「ご隠居さん~。お元気ですか~?生きてるんですか~?」

「朝っぱらから,嫌なことをいう奴だね。どうせ,WMetrohm さんとこの寛さんだろうけど。はいはい,生きてますよ。寛さんは相変わらずだね。今日は何のお話しだい?」

「チョット,硬度のことで教えて貰おうと思って,,,」

「硬度って,水のほうかい,硬さのほうかい?」

「カルシウム,マグネシウムですよ。上水試験方法じゃイオンクロマトで測っていいってことになってるんですけど,原子吸光の値と合わないことが多いんで,何でかって時々聞かれるんです。今日も問い合わせが来たんですよ。お客さんは前処理しないで取ってきた水をそのまま打ってるてんですが,番頭さんは溶離液に溶かしたほうがいいってんですよ。」

「う~ん。確かにそうだけどねぇ。実は,イオンクロマトを硬度測定に使うには,幾つか問題があるんだよ。さほど難しい話しではないんだが,,,」

 

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ご存じのように,硬度ってのは,水に溶けてるカルシウムやマグネシウムなんかの量を,炭酸カルシウム (CaCO3) の量に換算して表したものですよね。だから,カルシウムイオンとマグネシウムイオンの量をイオンクロマトで測って,それぞれの量を基にCaCO3の濃度に換算すればいい訳だ。カルシウム及びマグネシウムの原子量はそれぞれCa=40.078とMg=24.305,炭酸カルシウムの分子量はCaCO3=100.087だから,下の式を使えば簡単に計算できる。

硬度 (mg/L) ≒ Caイオン濃度 (mg/L)×2.5 + Mgイオン濃度 (mg/L)×4.1

よくアルプスの湧き水は硬水だっていうよね。欧州は石灰質の土地なんで,そこを長い時間かけて流れている間にカルシウムなんかが溶け込んで硬度が上っちまうんだ。日本は石灰質の土地が少ない上に滞留時間が短いんで高度は高くない。普通,そこら辺にある水はみんな軟水だ。水は文化そのものなんだよ。軟水はお茶を入れたり,お出しを取るにはもってこいだね。硬水じゃ,こんな美味しいお汁は作れやしない。けど,硬水は灰汁を出してくれるんで,肉を煮たりするには向いている。日本はお出し文化,欧米はシチュー文化って訳だ。

硬度の水道水質基準は300 mg/L以下で,水質管理目標設定項目は10~100 mg/Lだったかな。けどね,炭酸カルシウムって,貝殻や珊瑚の骨格だよ。石灰石や大理石だって炭酸カルシウムなんだよ。こいつ等はそう簡単には水に溶けないよね。ちなみに炭酸カルシウムの水への溶解度は0.00015 mol/L (25 ºC) だから,目一杯溶けたって150 mg/L (150 ppm) だ。なのに,水道水質基準が300 mg/L以下ってどういうことだろ?不思議じゃないかい?実は,水ん中じゃすべて炭酸カルシウムって形でいるわけじゃなくて,いろんな形でいるから,炭酸カルシウムの溶解度以上の数値が出てくる訳だ。それじゃ,逆はないのかな?水ん中には一杯粒子があるでしょ。そんな中にカルシウムやマグネシウムはくっついていないのかね?くっついていることだってあるよね。当然,石灰質の層を流れてきた水ん中には炭酸カルシウムの粒も入っているよね。

ここまではいいかな。次に,測定のほうの話だよ。

昔はね。硬度は滴定で測ってたんだ。キレート滴定って奴だけど,正確に測るためには金属の影響を減らさなきゃいけない。こん時,結構な濃度の青酸カリを使うんであまりやりたくはない。そこで,原子吸光光度法を使ってカルシウムやマグネシウムを測る人が多いんだ。

ここに引っかかりを感じないかい?硬度って水に溶けてるカルシウムやマグネシウムの量から求めるんじゃないかい?原子吸光なんぞを使っちまったら,溶けてないものまでは測っちまうことにならないかね?どうかな?何か変だろ?

正式には,ろ過したものを測定試料とするから,溶けてない分の問題はないということになる。つまり,0.45 µmのメンブランフィルタか何かできちんとろ過してから測れば,原子吸光との差がでるはずはないってことだ。実際に,水道水ではイオンクロマトと滴定法,原子吸光光度法との間ではかなり高い相関が得られる (下図)。けど,ろ過をしたっていっても,小さな粒が入っていないとは限らない。特に,河川水,排水,水道原水なんかだとこの心配は拭いきれない。実際,二割以上もずれてしまう時もある。当然,原子吸光のほうが高くなるんだけど,,,

 

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こんな時,溶離液で希釈してみると,固体の粒のせいかどうかが判る。炭酸カルシウムは,酸性で水に溶けやすくなるからね。特に,ジピコリン酸 (2,6-ピリジンジカルボン酸) を入れた溶離液なら余計溶けやすい。試料を希釈した後,少し超音波をかけて,30分~1時間も放っておくと粒は溶けてしまうね。こうやって測定すると固体の粒の影響をなくすことができますよ。原子吸光の測定値を正しいとしていいのかどうかは判らないが,まずは0.45 µmのメンブランフィルタできちんとろ過すること,そして溶離液で希釈すること。これさえすれば,ズレはかなり小さくなることは確かだね。

 

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硬度の高い水を飲んでいるとカルシウムが摂れるんで,骨が強くなって,イライラが解消されるってことになるかも知んないね。最近じゃ,ダイエットにもいいっていうけど,,,子供ん頃にぁ,山水を飲むとお腹を壊すよなんてよく言われたっけ。これは黴菌のせいだろうけどね。私はやっぱり金っ気,混じりっ気無しっていう水のほうがいいね。もっと云わせてもらえれば,そんな水で作った酒と豆腐でいっぱいやりたいね。こちらの懐具合は,いつも金っ気なしですけどね。今日はこんなとこで,また来月,,,

 

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