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イオンクロマトグラフで水を測定したらクロマトグラム上に入ってもいない成分のピークがある!?未知ピークが出た時の対処方法について、今回もご隠居さんが楽しく明快に解説しています。

シーズン1 その伍(五)

「ご隠居さん!いらっしゃいますかね?」
 

「おや,Metrohm さんとこの番頭さん。まだまだ暑いねぇ。そんなとこにいないで,こっちへお上がりな。相変わらずドサ廻りですかな?」 
 

「貧乏暇なしってやつで。相模,安房,上総,下総,常陸,上野,下野って,関八州外回り。」

 

「そりゃ,大変ですな。けど,武蔵が抜けてるね。江戸十里四方所払いって奴だね。」 

 

「まったくですよ。御奉行様が,なかなか根津の店に戻しちゃくれない。話は変わりますがね。ここんとこ続けざまに聞かれたんですよ。『イオンクロマトグラフのカラムで使われる充填剤ってどうなってんだ』って。瑞西の資料には詳しいことは何も載っちゃいないんですよ。ご隠居さんは,若い頃作ってたそうですよね?後から,清さんも寛の奴も来ますんで,ゆっくり教えちゃくれませんかね。」

 

「充填剤の作り方ですか。懐かしいねぇ。ずいぶん昔のことなんで何処まで思い出せるかねぇ〜。大まかなとこだけでいいですかね?そうそう,川崎の御大師様の久壽餅があるんだけど,皆が揃うまで,食べながら待っていましょうかね?」

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イオンクロマトグラフ用カラムの充填剤のほとんどはイオン交換樹脂だね。イオン交換樹脂ってのは,不溶性の合成樹脂にイオン交換基が化学的に導入されていて,イオン交換基の対イオンを放出して,代わりに溶液中のイオンを捕まえることができる。対イオンを入れ替えるってんで「イオン交換」ていうんだ。陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂があって,それぞれ,陽イオンと陰イオンを捕まえることができる。こいつらは,硬水の軟化や純水の製造等,意外と身近なところで使われてるんですよ。

 


有機酸分析 (イオン排除モード) には純水の製造等に用いられているイオン交換樹脂と似通ったものが使われるんだが,イオン交換モードの陰イオン分析や陽イオン分析用のイオン交換樹脂は,イオンクロマトのためにチョットした工夫がされてるんだよ。一番大きな工夫ってのは,イオン交換容量だな。イオン交換容量ってのは,どれだけイオンを捕まえることができるかっていう目安で,meq/gとかmmol/gっていう単位で表される。カラム一本当たりのイオン交換容量って形で,表示している会社もあるな。「eq」てのは,「当量」だ。塩化物イオンは1価のイオンだから「1 mol = 1当量」,硫酸イオンは2価のイオンだから「1 mol = 2当量」ですよ。イオン交換容量が大きければ,沢山のイオンをしっかりと捕まえることができるんだが,それを押し出すための溶離液の濃度も高くなっちまう。イオンクロマトでは濃度の低い緩衝液や酸を溶離液に使わなきゃ,電気伝導度検出器を検出することができない。ということで,そこら辺のイオン交換樹脂と比べて,イオン交換容量は1/100位なんだよ。普通のイオン交換樹脂のイオン交換容量は1〜4 meq/gだけど,イオンクロマト用のものは10〜200 µeq/gってとこかな。

ますは,イオン交換樹脂の基材樹脂の話です。基材樹脂ってのは,イオン交換基を入れる前の樹脂粒のことですよ。イオン交換樹脂は綺麗な真ん丸の小さな粒なんだよ。けど,お団子みたいに捏ねくり回して真ん丸にして作るんじゃない。基材樹脂は懸濁重合って奴で作るんだ。

雨粒はどんな形か判るかな?そう,まん丸だな。表面積が一番小さいくなるからだね。それじゃ,水ん中に油を入れて掻き混ぜると油はどうなるかな?これも簡単ですな。掻き混ぜている間は,油は真ん丸な形で水ん中を廻っていて,掻き混ぜを止めると油は浮いてきて,二層に分かれてしまう。懸濁重合はこれと同じ理屈だよ。重合試薬 (モノマー) を,それを溶かさない溶媒 (普通は水だな) 中で強くかきまぜながら熱何ぞをかけて重合を行うんだ。真ん丸な玉ができるので,粒状重合とかパール (真珠) 重合とも呼ばれるんだ。掻き混ぜる力を変えると,できあがる玉の大きさを変えることができる。イオンクロマトじゃ直径3〜10 µmのイオン交換樹脂が使われるんで,これに合うように掻き混ぜの早さと力を調節して重合するんだ。

ただ,このままじゃただの真ん丸い玉しかできない。実際の充填剤には一杯ちいさな孔が空いていて,大きな表面積を持っている。孔の大きさや表面積 (比表面積) は,充填剤にとってイオン交換容量と共に重要な要素なんだ。孔の調節方法はノウハウってことで内緒にされているんだが,重合反応時のモノマー溶液中に,モノマーに溶けて重合反応をしない溶媒 (細孔調節剤あるいは希釈剤と呼ぶ) を混ぜて懸濁重合を行うと孔を作ることができる。この混ぜる溶媒の種類と量を調節すると,数nm〜数百nmの孔を持っていて,250〜1000 m2/gの比表面積を持つ真ん丸の玉を作ることができるっていう訳だ。15 nm程度の孔を持っている充填剤の電子顕微鏡写真を下に見せますよ。左側が充填剤粒子一個の写真,右側は拡大写真ですよ。孔が一杯開いているのが判るかな?軽石みたいでしょ?

次に,イオン交換基の入れ方ですけど,,,さっきも話したけど,イオンクロマトじゃイオン交換容量を低くしなきゃいけない。イオン交換容量を低くするため,イオン交換基の入れ方が普通のものとは大きく違う。普通のイオン交換樹脂は,イオンを一杯捕まえるためにイオン交換容量を高くしなきゃならないんで,中のほうまでイオン交換基が入るような条件でイオン交換基を入れている。けど,これじゃイオンクロマトに使えないってんで,基材樹脂の表面だけに非常にちっちゃなイオン交換粒子 (ラテックスと呼ぶんだよ) をくっつけたラテックス型イオン交換樹脂が開発されたんだ。このラテックスは50〜200 nmと小さくて,基材樹脂の表面だけにあるからイオン交換容量を小さくすることができるし,イオンがくっついたり離れたりする早さも非常に早い。他には,化学的に基材樹脂の表面だけにイオン交換基を入れて,イオン交換容量を低くするっていうもの (表層官能基型) もある。これも基材樹脂の表面だけだからイオン交換容量を小さくなるし,イオンのくっつく早さも早い。イオンクロマトで使われる充填剤はどちらかの方法で作られてるんだよ。

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少し端折りすぎましたけど,何となく判りましたかな?何となくでも覚えときゃ,いつか役に立ちますよ。イオンクロマトグラフを使う上じゃ,充填剤がどうやって作られてるかなんてあまり関係ないように思うかもしれないが,分離カラムの性能や特性を比べる時には必要なんですよ。その辺の本には作り方は細かく書いてはいないけど,多少は頭に入れた上で分離カラムの型録をみると,今までに見えなかったものが見えてきますよ。

では,また来月にでも,,,

※本コラムは本社移転前に書かれたため、現在のメトロームジャパンの所在地とは異なります。

 

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