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IC-ICP-MS によるクロムの価数別分析

AN-M-013

2024-09

ja

メトロームのイオンクロマトグラフと アジレント 社製 ICP-MS を接続し、ICP-MS MassHunter 上で一元的に操作することにより、水中の Cr(III) および Cr(VI) の分析を行います.

イオンクロマトグラフィーと誘導結合プラズマ質量分析法を組み合わせることにより、ISO 24384 の指針に従って Cr(III) と Cr(VI) を識別することが可能です。

三価クロム(Cr(III))と六価クロム(Cr(VI)、クロム酸塩)との識別は、それぞれが示す毒性学的特性が大きく異なるため、極めて重要です。Cr(III) は糖および脂質代謝に関与する必須微量栄養素である一方、Cr(VI) は低濃度であっても強い毒性および発がん性を有しています [1,2]。そのため、総クロム含有量のみを測定することでは、正確なリスク評価には不十分である場合が多いとされています。

これら 2 種の化学形態を区別するため、さまざまな分析手法が開発されてきました。C8 または C18 カラムを用いたイオンペアクロマトグラフィー [3] に加え、近年では、高感度かつ高精度であることから、イオンクロマトグラフィー(IC)と誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を組み合わせた手法が注目されています。

本アプリケーションノートでは、ISO 24384 [4] に記載された手法に基づき、EDTA によるキレート処理を行った後、陰イオン交換クロマトグラフィーによって Cr(III) と Cr(VI) を分離し、ICP-MS により質量検出を行うアプローチについて説明します。さらに、メトローム IC ドライバーを介して メトローム 製 IC を アジレント 社製 ICP-MS MassHunter ソフトウェアに統合することで、分析プロセスが合理化され、時間の短縮が図られるとともに、分析全体の効率性および安全性が向上します。

サンプル(スイス、ヘリザウの水道水)と標準試料(0.1~20µg/L、Cr(III)およびCr(VI)を含む)は、IC-ICP-MSによる分析の前に、ISO 24384 [4]に記載されているようにキレート処理をして調製しました。

キレート処理には、0.025 mol/L の EDTA 溶液を使用しました(エチレンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸二ナトリウム塩〔Supelco〕9.31 g を超純水1000 mL に溶解)。この EDTA 溶液 2 mL を 20 mL メスフラスコに分取し、Cr(III) 用 100 µg/L 原液(塩化クロム(III)六水和物〔Sigma-Aldrich〕より調製)、Cr(VI) 用 100 µg/L 原液(IC 用クロム酸塩標準液〔Supelco〕より調製)、および 超純水 またはサンプル溶液を所定量加えて標線まで希釈しました。溶液の pH は、硝酸または水酸化ナトリウムを用いて 6.9 ± 0.1 に調製しました。

その後、穏やかに混合した溶液をスクリューキャップ付き試験管に移し、70 ± 3 ℃ で 60 分間加熱しました。

図 1. 水中のクロム価数別分析の装置構成は、メトローム 940 プロフェッショナル IC、889 IC サンプルセンター – cool、および アジレント・テクノロジーズ 社製 7850x ICP-MS で構成されています.

サンプルおよび標準試料に対するキレート前処理後、イオンクロマトグラフィー(IC)と誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を組み合わせることにより、価数別分析を実施しました(図 1)。

アジレント ICP-MS MassHunter 5.3(バージョン D.0103)上で両装置を制御するために、メトローム 製 IC 用ドライバー(Metrohm IC Driver 1.0, ICP-MS MassHunter)を使用しました(図 2)。双方向通信を確実に行うため(例えば、緊急時に両装置を停止させるため)、リモートボックス(Remote Box MSB, 6.2148.010)および接続ボックス(IC 装置―Agilent ICP-MS 接続用、6.05330.400)は必須となります。

サンプルおよび標準試料の取り扱いには、測定対象液体の安定性を高めるため、889 IC サンプルセンター – cool(図 1)を用いました。分離カラムへの注入は、非常に高速な 889 オートサンプラーによって、250 µL のフルループ注入法で行いました。

図 2. メトローム IC Driver 1.0 を用いることで、ICP-MS MassHunter(6.6090.100)上で IC および ICP-MS の両装置を単一ソフトウェアとして完全に制御することが可能です

Cr(III) と Cr(VI) の価数分離は、Metrosep Carb 2 - 100/4.0 分離カラム (Metrosep Carb 2 ガードカラムを装備) で、アイソクラティック条件および硝酸アンモニウム溶出液 (150 mmol/L 硝酸、Sigma-Aldrich、puriss. p.a.、≥ 65%) および 234 mmol/L アンモニア溶液 (ACS 試薬、28~30%、Sigma-Aldrich)、pH 9 ± 0.1 を使用して実施しました。

検量線(0.5~20.0 µg/L)は、指定された範囲の単一標準溶液を注入することで実施しました。メトロームのインテリジェント部分ループ注入技術(MiPT)を用いることで、単一標準溶液から検量線を作成することで全体的な性能を向上させることができました。

ICP-MS(7850x、G8422A)は、質量干渉を低減するため、コリジョンガスとしてHe(4.2 mL/分)を用いたTRAモード(時間分解分析)で動作させました[4]。同位体52Crおよび53Crは、質量あたりの積分時間0.3秒でモニタリングしました(RF出力1550 W、ネブライザーガス流量1.07 L/分)。Cr(III)およびCr(VI)のデータ評価および定量には、52Crのデータのみを用いました。アジレント ICP-MS MassHunter 5.3のクロマトグラフィーデータ評価機能を完全に利用できるようにするため、ソフトウェアをクロマトグラフィーソフトウェアパッケージにアップグレードしました。

ISO 24384 の例と比較して溶出液の濃度を高め、溶出液流量を 1.0 mL/min に設定することで、Cr(III) と Cr(VI) は 4 分未満で分離されました(図 3)。同じ長さのカラムでも、径 4 mm のカラムは 2 mm のカラムに比べて容量が大きく、特にマトリックス負荷の高い水源において、分析の堅牢性が向上し、カラムのマトリックス過負荷による影響を受けにくくなります。

Cr(III)およびCr(VI)の回収率はそれぞれ99.7%および114.0%であり、分析全体の信頼性を示しています(表1および表2)。0.1~20 µg/Lの範囲で検量線を作製した結果、両種(Cr(III)およびCr(VI))ともR値は1.0~0.998でした。最低標準液(0.1 µg/L)のピーク高さは2500 cpsを超え(ブランクは150 cps未満)、ISO 24384に準拠した濃度以下での検量線作製が可能であることを示しています。

図 3. 5 μg/L混合標準液と、添加済みおよび未添加の水道水サンプル(注入量250 μL)のクロマトグラムの重ね合わせ. クロマトグラムはm/z 52の測定強度を示しています. 溶出はMetrosep Carb 2 - 100/4.0分離カラムを用い、硝酸アンモニウム溶出液を用いてアイソクラティック条件で、流量1.0 mL/分で行いました.

表 1. 水道水および添加水道水中の52Cr(III)の分析結果

52Cr(III)の回収率は99.7%でした.

52Cr(III)
サンプル RT [ min ] Area 濃度 [ μg/L ]
5 μg/L混合標準液 2.11 380574 5.0
水道水 2.10 15018 0.2
添加水道水(Cr(III)とCr(VI)の混合物5μg/L) 2.11 394429 5.2

表 2. 水道水および添加水道水中の52Cr(VI)の分析結果

52Cr(VI)の回収率は114%と計算されたました.

52Cr(VI)
サンプル RT [ min ] Area 濃度 [ μg/L ]
5 μg/L混合標準液 3.21 362578 5.0
水道水 3.22 129449 1.8
添加水道水(Cr(III)とCr(VI)の混合物5μg/L) 3.23 542830 7.5

本アプリケーションノートでは、ISO 24384 に記載されたキレート前処理を行った後、イオンクロマトグラフィーと誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を組み合わせて、水中の六価クロムおよび三価クロムを高感度かつ信頼性の高い方法で測定する手法を示しています。

EDTAは錯化剤として使用され、Cr(III)と安定な陰イオン錯体を形成し、陰イオン交換クロマトグラフィーによるCr(VI)からの分離を容易にします。高容量陰イオン交換カラム(Metrosep Carb 2)を使用することで、2種の元素のベースライン分離が可能になり、マトリックス負荷の高い水源であっても堅牢性、高い回収率、そして精度が保証されます。m/z = 52におけるICP-MS検出の感度と選択性を維持するには、添加物を含まない硝酸アンモニウム溶離液が推奨されます。

分析全体は、アジレントのICP-MS MassHunterとメトローム IC Driver 1.0 for ICP-MS MassHunterを用いて管理されます。このソフトウェアは、ユーザーフレンドリーで高感度なCr(III)およびCr(VI)の価数別分析を実現する統合型ソフトウェアソリューションを提供します。この構成は、双方向通信を通じて最大限の分析安全性が確保されます。また、手動操作(例えば、機器制御時やソフトウェアへのデータ入力時)によるエラーの発生率を低減し、データの完全性を確保し、作業負荷の軽減を通じて全体的な効率を向上させます。

  1. Zhitkovich, A. Chromium in Drinking Water: Sources, Metabolism, and Cancer Risks. Chem. Res. Toxicol. 2011, 24 (10), 1617–1629. DOI:/10.1021/tx200251t
  2. Costa, M.; Klein, C. B. Toxicity and Carcinogenicity of Chromium Compounds in Humans - PubMed. Crit. Rev. Toxicol. 2006, 36 (2), 155–163. DOI:10.1080/10408440500534032
  3. Chang, Y.-L.; Jiang, S.-J. Determination of Chromium Species in Water Samples by Liquid Chromatography-Inductively Coupled Plasma-Dynamic Reaction Cell-Mass Spectrometry. J. Anal. At. Spectrom. 2001, 16 (8), 858–862. DOI:10.1039/B103509F
  4. International Organization for Standardization (ISO). ISO 24384:2024 Water Quality — Determination of Chromium(VI) and Chromium(III) in Water — Method Using Liquid Chromatography with Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry (LC-ICP-MS) after Chelating Pretreatment; Vernier, CH, 2024.
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